内定者との懇親会で、現場社員が交際経験を聞いた。OB訪問を受けた社員が学生を個人SNSへ誘導した。実習指導者が身体へ触れた。どれも採用管理システムの正式な「面接」欄には残らないかもしれませんが、企業と求職者の接点で起きる問題です。
2026年10月1日から、男女雇用機会均等法の改正により、事業主は求職者等に対するセクシュアルハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な措置を講じる義務を負います。従来の努力や推奨として扱うのではなく、採用・実習の運用に実装する段階です。
施行日に公開すべきものは「ハラスメントを許さない」という宣言だけではありません。候補者が面談前に読める接触ルールと、選考担当を通さず連絡できる相談窓口です。
本記事は2026年9月5日に、厚生労働省の改正案内、求職者等セクハラ防止指針、詳細リーフレット、男女雇用機会均等法の案内、あかるい職場応援団の定義・研修資料、2026年9月の公式解説を確認しました。個別事案の法的評価、被害者支援、懲戒、警察・労働局への相談は、事実と安全を優先して専門窓口へ確認してください。
対象者を新卒応募者だけに狭めない
採用、実習、OB訪問まで接点を棚卸しします。
「求職者等」には企業の求人へ応募する人だけでなく、就職説明会、インターンシップ、教育実習、看護実習など、求職活動や職業選択に資する活動へ参加する人が含まれます。企業が雇用する労働者を訪ねるOB・OG訪問も対象になり得ます。一方、専ら教育目的の社会科見学など、活動の性質で範囲が分かれます。
新卒採用、中途採用、アルバイト、障害者採用、外国人採用、インターン、学校推薦、実習、内定者交流を一つの接点台帳へ載せます。応募フォームに登録された人だけを母数にすると、イベント参加者や社員個人へ連絡した学生が漏れます。
人材紹介会社や採用代行を使う場合も、自社社員が候補者へ接する部分は消えません。委託先の相談窓口だけへ押し付けず、自社へ報告される期限、緊急時の安全確保、証拠保存、選考停止を契約で決めます。採用管理システムの選び方では、評価権限と相談情報の分離も確認します。
性的な言動と求職活動の阻害を具体例へ落とす
意図ではなく力関係と活動への影響を見ます。
求職者等セクハラは、事業主が雇用する労働者による性的な言動により、求職者等の求職活動等が阻害される問題です。身体接触だけでなく、交際・性的経験・容姿に関する質問、性的な画像の送信、食事や交際の執拗な誘い、拒否と選考を結び付ける発言などを研修で扱います。
「冗談だった」「相手も笑っていた」「業界の雰囲気を知ってもらった」という説明で判断しません。求職者は評価される立場にあり、拒否すれば不採用になると感じやすい力関係があります。言動の内容、回数、場所、関係、拒否後の対応、選考への影響を確認します。
性的指向、性自認、恋人の有無、妊娠予定など、採用判断に不要な質問を面接票から外します。応募者自身が話し始めた場合も、面接官が興味本位で掘り下げず、職務上必要な確認へ戻す練習をします。
判断の中心は社員の意図ではなく、性的な言動と評価上の力関係によって、応募・実習・職業選択が妨げられたかです。
面談の時間・場所・SNSを会社が指定する
会社が把握できる接触経路へ統一します。
防止指針では、求職活動等に関するルールの例として、面談時間・場所、実施体制、やり取りに用いるSNSの種類などが挙げられています。社員へ「常識的に対応」と任せず、候補者にも事前に見える形で示します。
面談は原則として会社が予約した会議室、オンライン会議URL、営業時間帯で行います。一対一が必要な場合は、ガラス面、入退室記録、録画の扱い、同席希望の手順を決めます。飲酒を伴う場所、ホテル客室、自宅、会社が把握しない車内へ候補者を呼びません。
連絡は採用システム、会社メール、指定ビジネスチャットに限定し、個人LINEや消えるメッセージを使いません。候補者から個人SNSへ連絡が来た場合も、会社経路へ戻す定型文を社員へ配ります。休日・深夜の送信を止め、緊急連絡の定義を置きます。
ルールは社員だけの内規にせず、候補者が違反へ気付き、断れる言葉で公開します。
相談窓口を採用評価者から切り離す
相談情報が選考へ逆流しない権限を設計します。
事業主は相談窓口をあらかじめ定め、求職者等へ周知し、担当者が適切に対応できる状態を作ります。採用ページの最下部に代表電話だけを載せても、面接官本人が出る可能性があれば相談できません。
窓口はメール、フォーム、電話など複数経路を用意し、匿名相談、代理相談、緊急時の扱いを説明します。受付担当が選考評価を見たり、採用担当が相談本文を自由に閲覧したりしない権限分離を設けます。選考を止める必要がある場合も、共有するのは必要最小限の事実と指示です。
候補者へは、相談しても選考上不利益に扱わないこと、プライバシーを保護すること、会社外の大学キャリアセンターや都道府県労働局等へ相談できることを示します。相談後に不採用となる場合、通常の評価根拠と決裁履歴を残し、報復との疑いに説明できるようにします。
相談件数0を安全の証拠にしません。窓口到達テスト、返信時間、採用担当からの独立性、候補者への周知率を測り、「相談できない0件」を見分けます。
初動24時間で安全と証拠を守る
再接触を止め、会社側の記録を保全します。
相談を受けた担当者は、最初に現在の安全、行為者との次の接触、選考・実習予定、必要な医療・心理支援を確認します。詳細を一度に語らせることより、次の面談を止め、別担当へ切り替えることを優先する場面があります。
メッセージ、メール、日程、会議URL、入退室記録、防犯映像、面接評価の保存期限を延長します。候補者に証拠収集を全て負わせず、会社が持つ記録を消去しない保全指示を出します。録音の提出を強制条件にしません。
受付内容は、本人の言葉と担当者の評価を分けて記録します。「誤解」「恋愛トラブル」などの結論を初動欄へ書かず、日時、場所、言動、関係者、希望する配慮を残します。緊急性が高い場合は警察や支援機関への連絡を本人と相談します。
調査担当と採用決裁者の利害を切る
採用目標から独立した事実確認を行います。
指針は事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者へ配慮し、行為者へ適正な措置を行い、再発防止を講じることを求めます。採用目標を持つ担当者や、行為者の直属上司だけで調査すると、採用イベントを止めたくない利害が入ります。
調査責任者、面談者、法務、人事、外部専門家の役割を事案の重大性で決めます。相談者、行為者、目撃者へ別々に聞き、質問項目と記録方法を統一します。相談者へ行為者との対面や反論を直接求めません。
判断できない事実が残っても、再接触の制限や担当変更などの暫定措置は取れます。「確証がないから何もしない」と「懲戒を確定する」は二択ではありません。調査中の情報共有先と期限を絞り、噂による二次被害を防ぎます。
被害者配慮と選考の公平を同時に守る
本人が選考の続行・変更・辞退を選べる状態へ戻します。
被害を受けた候補者が、同じ会社の選考を続けたい場合も、辞退したい場合もあります。会社が謝罪を受け入れる代わりに辞退を迫ったり、選考継続を被害回復の証拠にしたりしません。本人の希望を聞き、担当変更、日程延期、オンライン化、実習先変更を提案します。
既に評価が入力されている場合、行為者が付けた点数やコメントをそのまま最終選考へ流さず、再評価の要否を独立して判断します。採用AIの公平性を検証する方法と同様に、相談情報をモデル学習や自動不採用理由へ混ぜません。
医療費、交通費、実習単位、学校連携など具体的な損害がある場合は、本人へ必要な支援を確認します。会社の都合で守秘契約を急がせず、相談先や家族・学校への連絡まで禁じる条件を提示しません。
被害者配慮は「選考を辞退してもらうこと」ではありません。安全を確保した上で、続行・延期・担当変更・辞退を本人が選べる状態を戻します。
行為者措置を役職や採用実績で変えない
役員を含むエスカレーション先を先に定めます。
行為者が役員、人気社員、採用実績の高いリクルーターでも、同じ調査と措置の基準を使います。注意、採用業務からの除外、研修、配置、懲戒などを就業規則と事実に沿って判断し、被害者へ必要な範囲で対応結果を伝えます。
「悪気はなかった」という反省文だけで採用接点へ戻さず、再発リスクと権限を見ます。個人SNS、飲酒面談、無断の一対一接触が組織的に黙認されていたなら、行為者一人の処分だけでは再発防止になりません。
役員や社外取締役が関わる場合の報告先を、事案発生前に決めます。内部通報窓口、監査役、取締役会、外部弁護士へのエスカレーション条件を明文化します。被害申告した社員や調査へ協力した社員への不利益取扱いも禁止し、異動・評価の変化を後から点検します。
学校・紹介会社・委託先との境界を契約する
相談、調査、連絡の責任を接点ごとに分けます。
教育機関の実習や大学経由のOB訪問では、企業の窓口と学校の窓口が別々に動きます。厚生労働省の資料は、教育機関の相談窓口担当者等から情報提供があった場合の連携を望ましい取組として示しています。本人の意向と情報共有範囲を確認し、学校へ丸投げしません。
採用イベント会社、人材紹介会社、店舗フランチャイズ、実習受入先が関わる場合、誰の労働者が行為者か、誰が事実確認するか、候補者へ誰が連絡するかを契約付表へ置きます。委託先のプライバシーポリシーだけで相談情報の二次利用を許しません。
顧客や取引先など自社雇用の労働者以外による類似被害の相談にも、必要に応じ適切に対応することが望ましいとされています。法的義務の定義から外れる可能性だけを理由に受付を拒まず、安全確保と関係先への働きかけを検討します。
施行前に抜き打ちで候補者役を通す
公開ルールから相談後の保護まで実演します。
規程完成をもって準備完了にせず、候補者役が求人応募から内定者交流まで進みます。面接案内に接触ルールと窓口が届くか、社員が個人SNSを断れるか、夜間連絡を止められるか、相談フォームが採用担当を経由せず届くかを試します。
重大相談の訓練では、24時間以内の安全確保、ログ保全、選考停止、独立調査、被害者への連絡まで時間を測ります。調査メンバーへ実名を出す前に、必要性と守秘範囲を確認します。窓口担当が休暇中でも受付が止まらない交代制を用意します。
KPIは研修受講率だけにしません。指定外連絡の検知数、一対一面談の例外数、窓口到達時間、初回返信時間、暫定措置までの時間、選考評価の分離率、再発防止完了率を四半期ごとに監査します。カスハラ対策の義務化とは、被害者と行為者の関係が異なるため、相談票と初動を混同しません。
候補者役が実際に相談して初めて、窓口の見つけやすさと採用評価からの独立性が分かります。
施行前の合格条件は、全員が研修動画を見たことではなく、候補者がルールを読め、違反を断れ、独立窓口へ相談し、選考上の報復なく保護される流れを実演できることです。
採用サイトには、候補者向けルールを独立ページで公開します。会社が認める連絡手段、面談可能時間、原則の場所、飲酒を伴う面談の禁止、個人SNSへ移らないこと、相談窓口、緊急時の連絡を一画面で読める量にします。法律名と長い就業規則だけを貼りません。
面接案内メールにはページへのリンクを毎回入れ、候補者が違反を報告するときに、選考番号だけで相談できるようにします。氏名や相談本文を採用分析ダッシュボードへ送らず、アクセスログと相談記録の保存先を分けます。多言語採用では、機械翻訳だけに頼らず、禁止事項と窓口が同じ意味になっているかを確認します。
公開後は、スマートフォンで窓口へ3回以内の操作で到達できるか、面接官名を知らなくても送信できるか、自動返信に次の安全行動が書かれているかを試します。入口が見つからない制度は、紙の上で整っていても現場では機能しません。
候補者向けページの完成条件は法令文を掲載することではなく、「この連絡や面談は会社ルール外だ」と本人が判断し、採用担当者を介さず相談できることです。
参考情報
義務の対象、措置、相談対応を支える公式資料です。
以下は2026年9月5日に内容と到達性を確認した一次情報です。
よくある質問
気になる質問を開くと、本文の重要点を短く確認できます。
Q求職者等セクハラ対策はいつから義務になりますか?
A2026年10月1日施行です。方針、行為者への対処、接触ルール、相談窓口、事実確認、被害者配慮、行為者措置、再発防止、プライバシー保護等を施行前に運用できる状態へします。
Q中途採用やアルバイト応募者も対象ですか?
A新卒だけに限る制度ではありません。求人応募者のほか、職業選択に資する説明会、インターン、実習、OB・OG訪問なども活動の性質により対象になり得ます。
Q社員の個人LINEで面談調整しても、相手が同意すれば問題ありませんか?
A候補者が断りにくい力関係があり、会社が記録・介入できない経路はリスクが高まります。会社指定のメール、採用システム、会議URLへ統一し、候補者にもルールを知らせます。
Q相談窓口は採用担当者が兼務できますか?
A受付者が採用評価へ関与すると相談情報が選考へ影響するおそれがあります。実務上の兼務がある場合も、閲覧権限、選考決裁、代替窓口、外部窓口を分け、独立性を説明できるようにします。
Q事実が確定するまで面接官を外せませんか?
A懲戒判断と暫定的な安全措置は別です。次の接触を止め、担当変更や選考延期を行いながら、独立した担当が迅速・正確に事実を確認できます。
Q大学のキャリアセンターへ相談された場合、会社は対応しなくてよいですか?
A学校の窓口と会社の窓口はいずれも相談先になり得ます。本人の意向と共有範囲を確認し、教育機関から情報提供があれば連携して適切に対応することが望まれます。
Q相談した応募者を不採用にすると違法ですか?
A相談を理由とする不利益な取扱いや報復を避け、相談情報と選考評価を分離します。別の正当な理由で不採用とする場合も、通常の評価基準、証拠、決裁経路を説明できるように残します。