許認可SaaSの月額料金が「システム利用料」と書かれていれば、行政書士法を気にしなくてよいのでしょうか。答えは料金名だけでは決まりません。2026年1月1日に施行された改正法は、無資格者が他人の依頼を受け、いかなる名目によるかを問わず報酬を得て、官公署へ提出する書類などを業として作成することを禁じる文言を明確にしました。画面利用料、成功報酬、顧問料、紹介料へ請求名を変えても、実態が個別案件の書類作成なら境界は動きません。
同時に、すべての申請支援が行政書士だけの仕事になるわけでもありません。申請者本人が自社の書類を作ること、制度の一般情報を読むこと、入力データを保存する道具を使うこと、配送やスキャンだけを委託することまで一律に禁じる制度ではありません。発注側に必要なのは、サービスの広告文句を信じることではなく、作業を一工程ずつ割って実行者と判断者を確認することです。
2026年の境界は請求書の名目ではなく、個別案件で誰が記載内容を選び、官公署提出書類の文案を完成させたかという実態から判定します。
本記事は2026年9月8日に、行政書士法、令和7年法律第65号、国会の審議経過、日本行政書士会連合会の公式説明を確認しました。弁護士、税理士、司法書士、社会保険労務士など他法令の業務や、個別案件の適法性は事実関係で変わります。契約締結前に、対象書類と実作業を示して資格者または所管窓口へ確認してください。
改正で変わったのは報酬名を替える逃げ道の明確化
改正条文、独占業務、罰則を同じ案件へ当てます。
行政書士法第19条は、行政書士または行政書士法人でない者が、他人の依頼を受け報酬を得て、行政書士法第1条の2に規定する業務を業として行うことを原則として禁じています。令和7年法律第65号は、この「報酬を得て」の前に「いかなる名目によるかを問わず」を加えました。国会で成立した改正法の施行日は2026年1月1日です。
第1条の2が中心に置くのは、官公署へ提出する書類、権利義務または事実証明に関する書類を、他人の依頼を受けて作成する業務です。ただし、他の法律で制限されるもの、行政書士法上の例外、本人が自ら行う作業を混同できません。会社設立、税務、登記、訴訟、社会保険の手続は別の士業法との境界も確認します。
違反には罰則があり、改正法は法人に対する両罰規定も整備しました。現場担当だけの問題として処理せず、販売会社、受託会社、親会社、プラットフォーム運営者のどこが対価を受け、どこが実作業を行うかを法人単位で追います。
「コンサルティングに書類作成を無料付帯する」という設計でも、全体の対価と個別文案作成が結び付けば、無料という表示だけで安全にはなりません。
まず七つの工程へ分ける
相談から補正までの実行者と判断者を切り分けます。
許認可支援を、相談、事実収集、一般情報の提示、要件判定、記載内容の選択、書類作成、提出・補正の七工程へ分けます。「申請サポート一式」という一行の見積では、資格が必要な判断と定型作業が混ざります。
相談で聞くのが、法人名、所在地、設備、役員、売上、従業員数など事実の確認だけなのか、その事実を法令要件へ当てはめて申請可否を判断するのかを区別します。入力フォームへ本人が自分の言葉を記入することと、担当者が回答を聞いて官公署向けの表現へ書き換えることも同じではありません。
完成直前だけ行政書士へ回す運用では、前工程で無資格者がすでに個別文案を完成させていることがあります。資格者が名前を載せるだけでなく、いつ受任し、誰から事実を聞き、どの判断を行い、どの版を完成させたかを記録します。
申請SaaSは画面より入力の主導権を見る
本人入力と個別文案作成の違いを操作単位で見ます。
セルフサービス型のSaaSが、法令や公開された手引を表示し、利用者自身が項目を選び、自分のデータから書類を出力する場合、システムは文房具に近い役割を持ちます。しかし、チャット担当者が利用者の事情を聞いて回答を選び、入力内容を修正し、申請理由の文案を作ると役割が変わります。
自動判定も、単純な必須欄チェックと、個別事情から許可要件への適合を判断する機能を分けます。どの入力がどの規則へ結び付くか、利用者が結果を修正できるか、資格者が関与する場合はいつ関与するかを仕様書へ置きます。「AIが作成したので人が作成していない」という説明は、サービス提供者の業務実態を消しません。
販売画面には、対応する手続、利用者が担う作業、行政書士が担う作業、対象外、追加料金、補正時の窓口を明記します。行政書士サービスを組み込むなら、利用契約とは別に受任者、委任範囲、報酬、利益相反、本人確認を示します。
入力画面が同じでも、本人が内容を決める場合と、受託者が個別事情から記載内容を決める場合では役割が異なります。
SaaSの安全性は無人か有人かではなく、個別事情から申請書の答えを決める主体が利用者本人か、資格者か、無資格の受託者かで見ます。
成功報酬とセット販売を一つの契約として読む
料金名ではなく総対価と成果物を束ねます。
補助金採択額の一定割合、許可取得時だけ発生する料金、機器販売に含まれる申請支援費は、書類作成料という名称を使わない典型です。契約書、見積、営業資料、請求、紹介料を一つに並べ、対価の経済的な目的を読みます。
機器会社が顧客の事実を行政書士へ渡し、行政書士が顧客と直接契約して判断・作成する形と、機器会社が文案を完成させて資格者へ確認だけ依頼する形は違います。後者は資格者の確認工程があっても、前段の業務が自動的に適法になるとは限りません。
顧客紹介の対価を設ける場合も、紹介会社が法律判断や文案作成へ踏み込まない範囲、顧客情報の同意、行政書士の独立性を確認します。採択や許可を保証する表現、行政庁との特別な関係を示唆する表現は使いません。
一つの申請で複数契約があるときは、名称別ではなく総額、支払条件、実作業、成果物、顧客との連絡履歴を束ねて報酬性を確認します。
自社申請と子会社代行の境界を取り違えない
同じ企業グループでも別法人への役務を区別します。
法人が自社の許認可申請書を従業員に作らせる場面は、他人の依頼を受ける外部代行と構造が異なります。しかし、同じ企業グループでも親会社と子会社は別法人です。シェアードサービス会社が各子会社から費用を受け、子会社名義の官公署提出書類を作る場合は、「グループ内だから自社申請」と決め付けません。
人件費の実費精算、共通管理費、システム利用料として請求していても、改正条文は報酬の名目を問いません。出向者がどちらの指揮命令で働き、誰の業務として書類を作るか、成果物の責任を誰が持つかを、出向契約と実際の作業で確認します。
フランチャイズ本部が加盟店の申請を支援する場面も、マニュアル配布と個店の申請書作成を分けます。本部が全加盟店共通の事実を整理し、加盟店本人または受任した行政書士が個店固有の内容を決める役割分担なら、その境界を操作権限と版履歴へ反映します。
外注先のさらに先まで責任線を引く
実際に文章を完成させる再委託先まで確認します。
コンサル会社が受注し、BPO会社へ入力を外注し、最後に行政書士へ確認を頼む多層契約では、発注企業から見えない層で文案が作られます。委託先一覧、再委託承認、作業者の資格、成果物の版、顧客との連絡手段を契約締結前に確認します。
「有資格者監修」は、個々の案件を受任した意味とは限りません。サービス一般のフォームを監修しただけなのか、案件ごとに事実確認と判断を行うのか、行政書士名、登録番号、所属会、受任日、連絡窓口を確認します。
海外の入力センターを使っても、日本国内の行政手続に関する業務の性質は消えません。個人情報や機密情報の国外移転に加え、無資格者の作業範囲、原本管理、押印・電子署名、事故時の回収を確認します。
発注者が確認すべき最終作業者は一次受託先ではなく、顧客の事情を読み、提出書類の文章を実際に完成させる人です。
行政書士へ渡す資料と判断を分ける
企業が保証する事実と資格者の判断を分離します。
企業は、登記事項、賃貸借契約、図面、財務情報、設備仕様、従業員名簿などの事実資料を正確に用意します。行政書士は対象手続の受任範囲に応じ、要件との対応、必要書類、表現、提出、補正を扱います。元資料の事実まで資格者へ丸投げすると、誤記の責任が曖昧になります。
社内責任者は、誰が各事実を証明するか、有効日時点はいつか、原本と写しの所在、変更後の再確認を台帳へ置きます。行政書士へ送った後に施設面積や役員が変わった場合、旧版をそのまま提出しない通知手順も必要です。
依頼の出口は「申請完了」ではなく、受理、補正、許可、不許可、更新、変更届、保存年限まで分けます。許可取得後の運用義務や定期報告が別契約なら、その空白期間と担当者を明示します。
企業が保証する事実と、資格者が担う法令判断・書類作成を分けると、変更や補正時にも責任を追えます。
発注前に残す八点の証拠
契約、操作、版、対価を後から再現できる形にします。
第一に対象書類の正式名称と提出先、第二に本人が用意する事実、第三に一般情報の出典、第四に要件判断者、第五に文案作成者、第六に提出・補正の代理者、第七に各対価、第八に再委託先を残します。営業提案だけでなく、実際の操作権限と納品物を確認します。
画面録画やチャット履歴は、利用者本人が選んだ内容と、担当者が書き換えた内容を区別できる粒度で保存します。契約終了後も、いつの法令・様式を使ったか、最終版へ誰が承認したかを追えるようにします。
発注審査は法務部だけに閉じません。営業が「丸投げ可能」と説明し、カスタマーサクセスが個別回答を代筆し、開発が自動文案を出す場合、契約書だけ直しても実態が残ります。販売資料、応答テンプレート、権限、評価指標まで一緒に監査します。
適法性の説明資料は「行政書士と提携」の一文では足りず、案件ごとの受任、判断、作成、提出、補正を誰が担ったか再現できる必要があります。
罰則だけでなく申請品質の損失を測る
再作成、補正、事業開始の遅延まで費用化します。
無資格業務の疑いが生じると、契約停止や返金だけでなく、申請内容の再確認、顧客への説明、行政庁への補正、資格者による再作成が発生します。許可の期限、事業開始日、融資実行、採用計画へ遅延が連鎖するため、最安の代行料だけで発注先を選べません。
経営指標には、初回受理率だけでなく、補正回数、事実誤り、様式改定への反映時間、資格者へ届くまでの日数、顧客が判断者へ直接質問できた割合を置きます。補正ゼロを目標にして不確かな事実を断定するより、疑義を提出前に返せる運用が安全です。
顧客が自分で申請するサービスなら、難しい案件を資格者へ切り替える条件を決めます。外国法令、行政処分歴、特殊な法人関係、例外許可、期限直前などを検知したら、自動出力を続けず対応範囲外として明示します。
90分の発注会議で採否を決める
一件の申請を通し、作業実態から結論を出します。
最初の30分で、実際の申請一件を選び、受託先が受領する情報から最終提出物まで画面と成果物を通します。次の30分で、誰が要件を判断し文案を直すか、資格者の受任時点、再委託、補正窓口を確認します。最後の30分で、総額、解約、事故、様式変更、データ返却を契約へ落とします。
採用できるのは、本人入力と資格者業務の境界が明確で、個別案件の版履歴が残り、難しい案件を止められるサービスです。見送るべきなのは、利用料にすべて含むとだけ説明し、作成者を開示せず、資格者へ直接連絡できず、成功だけを保証するサービスです。
士業の選び方、システム開発の外注方法、取引先サイバーリスク管理、取適法の契約実務も併せると、資格境界、再委託、契約証拠を同じ審査表へ置けます。
発注後は四半期ごとに、対応手続、担当資格者、再委託先、様式改定、補正率を確認します。契約時は適切でも、担当交代やサービス機能追加で無資格担当者の作業範囲が広がることがあります。新しいAI入力支援や自動文案機能も変更審査の対象にします。
発注可否は「便利そうか」ではなく、実作業者を特定でき、本人・資格者・システムの判断が混ざらず、補正まで再現できるかで決めます。
参考情報
改正条文と行政書士業務の公式説明です。
以下は2026年9月8日に内容と到達性を確認した一次情報です。
よくある質問
気になる質問を開くと、本文の重要点を短く確認できます。
Q申請SaaSを使うだけで行政書士法違反になりますか?
A一律にはなりません。利用者本人が情報を選び自分の書類を作る道具と、受託者が個別事情を判断して文案を作るサービスを分け、実際の操作と対価を確認します。
Qコンサル料に書類作成を無料で付ければ問題ありませんか?
A無料という表示だけでは決まりません。改正法は報酬の名目を問わないことを明確にしたため、契約全体の対価、実作業、成果物の関係を確認します。
Qグループ会社の申請を親会社が作れますか?
A親会社と子会社は別法人です。費用負担、指揮命令、書類の作成者、資格者の関与を実態で確認し、単にグループ内だから自社申請とは扱いません。
Q行政書士監修と表示されたサービスなら安心ですか?
A一般フォームの監修と案件ごとの受任は別です。各案件で誰が受任し、事実確認、要件判断、文案作成、補正を担うかを確認します。
Q会社の従業員が自社の申請書を作ることも禁止されますか?
A本人である法人が自ら申請書を作る場面と、外部の他人から依頼を受け報酬を得て作成する場面は構造が異なります。対象書類や他士業法の制限も含め個別に確認します。
Q違反が疑われたら発注企業は何を確認しますか?
A対象案件を止め、契約、請求、チャット、版履歴、資格者の受任記録、提出・補正履歴を保全します。顧客や行政庁への対応は資格者・専門家と事実関係に基づいて決めます。