「家を手放さずに老後資金を得る」と「家を売っても住み続ける」は似て聞こえますが、法律上も家計上も別の選択です。リバースモーゲージでは家の所有権を持ったまま借金をし、リースバックでは売買契約を結んだ日から借主になります。10年住むなら、最初にもらえる金額より、その10年間に払う利息または家賃と、最後に残る権利が決定的です。
住宅金融支援機構の「リ・バース60」は、満60歳以上を主な対象とするリバースモーゲージ型住宅ローンです。一般に毎月は利息のみを支払い、元金は死亡時に相続人が一括返済するか、担保住宅の売却代金で返済します。資金使途は住宅の建設、購入、リフォーム、住宅ローン借換えなどで、自由な生活費を借りる商品とは異なります。
リースバックは、自宅を事業者へ売却して現金を受け取り、同時に賃貸借契約を結んで家賃を払う取引です。売却代金の使途は比較的自由でも、家は他人の所有になり、住める期間と家賃は契約に左右されます。
二つの差は金利と家賃ではありません。自宅の所有権を残して借金を負うか、所有権を手放して借主になるかです。
本記事は2026年9月4日に、国土交通省、住宅金融支援機構、国民生活センターの公開情報を確認して作成しました。個別商品の金利、融資限度、ノンリコース条件、賃料、契約期間、税務は異なるため、契約書と重要事項説明書を専門家へ示して確認してください。
まず「あと何年この家に住むか」を決める
本人と配偶者の居住終了日を年表へ置きます。
比較の起点は資金希望額ではなく居住年数です。2年後に施設や子世帯の近くへ移る可能性が高い人と、15年以上住みたい人では、家賃総額も修繕負担も違います。夫婦なら、契約者が亡くなった後に配偶者が住める条件まで年表へ置きます。
現在70歳、配偶者68歳、10年間住む前提なら、リバースモーゲージは10年分の利息、固定資産税、火災保険、大規模修繕を試算します。リースバックは10年分の家賃、更新料、保険、家賃改定、退去費、買戻し希望があればその条件を試算します。
「ずっと住める」という口頭説明は、普通借家か定期借家か、契約期間、更新、再契約、賃料不払い、建物売却時の承継を確認しなければ意味が定まりません。住み続けたい期間より定期借家の期間が短いなら、更新ではなく再契約できない場合まで考えます。
年齢ではなく居住終了日を仮置きします。配偶者の居住、施設入居、相続、家の売却までを一本の年表にすると、契約の欠けた部分が見えます。
リバースモーゲージは所有を残し、債務も残す
月支払、元金、相続時精算を分けて読みます。
リバースモーゲージでは、家を所有し続けるため、固定資産税、修繕、管理責任が原則として残ります。毎月の支払いを利息だけに抑えられる商品でも、元金が減っているわけではありません。変動金利なら金利上昇で月支払が増えます。
担保評価が下がった時の扱い、融資限度、追加担保、元金返済条件を確認します。住宅金融支援機構は「リ・バース60」について、利用者が亡くなった時に相続人が一括返済するか、担保物件売却で返済する仕組みを案内しています。ノンリコース型なら売却代金が債務へ届かなくても相続人へ残債を請求しない一方、リコース型は不足分を返済する条件があります。
資金使途で選べる商品が分かれます。「リ・バース60」は住宅融資保険を利用する住宅ローンで、リフォーム、建替え、住替え、住宅ローン借換えなどが中心です。医療費や日常生活費を自由に引き出す一般的なリバースモーゲージと同じだと思わず、何の領収書・契約が必要かを金融機関へ確認します。
リバースモーゲージは毎月の支払いが利息だけでも、死亡時まで借入元金が残ります。相続時の売却、一括返済、ノンリコースの扱いを申込前に契約書で確定させます。
リースバックは売却と賃貸を二本の契約で読む
売却価格だけで居住条件を見落としません。
リースバックでは、売却価格が高ければ良いとは限りません。高い売却価格と高い家賃が組み合わされることもあり、低い家賃と短い定期借家が組み合わされることもあります。売買契約と賃貸借契約を別々に評価し、片方の好条件で全体を判断しないようにします。
国民生活センターは2025年5月、住宅リースバックの相談で契約当事者の約7割が70歳以上であり、相談が増加していると公表しました。長時間の勧誘、相場より安い売却、家賃値上げで住めなくなる事例を挙げ、自宅を不動産業者へ売却した場合はクーリング・オフできないと注意しています。
売却前に、少なくとも通常売却の仲介査定を二社、リースバック買取査定を二社取り、差額を「住み続ける権利の価格」として見ます。通常売却4,000万円、リースバック3,000万円なら、1,000万円の差を家賃や早期現金化だけで納得できるかを判断します。住宅リースバックの契約確認と照合し、仲介手数料、登記、譲渡所得、ローン返済も同じ表へ入れます。
リースバックは一つの商品ではなく「家を売る契約」と「同じ家を借りる契約」の組合せです。価格、期間、更新、家賃を二本に分けて審査します。
10年後の手元残高を三案で出す
現金、債務、住宅の権利を同じ日付へそろえます。
比較表には、現状維持、リバースモーゲージ、リースバックの三案を置きます。リバースモーゲージは受取額から10年分の利息、固定資産税、保険、修繕を引き、10年後の債務残高と家の想定売却額を別に示します。リースバックは受取額から10年分の家賃、更新料、保険を引き、10年後に家の資産価値が手元にないことを反映します。
現状維持も費用ゼロではありません。築30年の戸建てなら、屋根、外壁、給湯、配管、耐震、断熱などの更新が重なる可能性があります。住宅業界の総コストを参考に、修繕を平均年額へ薄めるだけでなく、いつまとまった現金が必要かを年表へ置きます。所有を続ける案だけ修繕を過大にし、リースバック案で家賃上昇や退去費を外す比較は公平ではありません。
三案へ同じ住宅価格の上振れ・下振れを当てます。所有を残す案では値上がりも値下がりも本人側に残り、売却済みのリースバックでは原則として将来の値上がりを受け取りません。買戻し特約があっても、売却価格と同額で戻せるとは限らないため、価格算式を年ごとに置きます。
例として3,000万円をリースバックで受け取り、月15万円を10年払えば、家賃だけで1,800万円です。更新料や値上げを除いても、受取額の6割が居住費へ戻ります。これが不利と決まるわけではありません。修繕と価格下落のリスクを所有者へ移し、早く現金を得る価値との交換です。
リバースモーゲージで2,000万円を借り、仮に年3%の利息だけを払うなら、単純計算で月5万円、10年600万円です。ただし実際は変動金利、借入残高、手数料、商品条件で変わります。安く見える試算ほど金利上昇を加え、年3%、4%、5%で月支払と累計を並べます。
受取額だけを比較するとリースバックが大きく見え、月支払だけならリバースモーゲージが軽く見えます。10年後の現金、債務、住宅の権利を同じ日付で比べます。
家族会議では相続より先に居住を話す
配偶者が住む条件と精算担当を決めます。
親が自宅を資産だと思い、子が将来住まない場合でも、売却後の住まいは必要です。相続人が家を残したいかではなく、契約者死亡後に配偶者が住めるか、売却手続を誰が行うか、残置物をいつ片付けるかを話します。
リバースモーゲージは推定相続人の同意や説明を求める商品があります。ノンリコースでも、家の売却、期限、残置物、売却代金が債務を上回った時の残額を確認します。リースバックでは既に所有権が移っているため、家そのものは相続財産に含まれませんが、売却代金の残額や賃貸借上の地位を整理します。
住宅ローン借換えの判断を読む前に、親の希望を「住む」「現金を使う」「家を残す」の優先順で書きます。全てを同時に最大化できるとは限りません。家を残す優先度が高いなら、部分的なリフォーム融資、住替え、家族内貸付も比較します。
家族が同意したかではなく、配偶者の居住、相続人の返済選択、家の売却手続を具体的な担当と期限まで共有します。
契約当日に決めないための停止線
クーリング・オフできない売却を第三者と確認します。
訪問や電話で「今日だけ」「この地域で最後」「近所も契約した」と急かされても、査定の根拠にはなりません。自宅売却はクーリング・オフできないため、署名前に止まる仕組みを作ります。単独で会わず、家族または信頼できる第三者を同席させ、録音や書面を残します。
売買では、所有権移転日、代金支払日、抵当権抹消、契約不適合責任、違約金、再売却を確認します。賃貸では、普通・定期、期間、更新・再契約、賃料改定、修繕、原状回復、転貸、所有者変更、買戻しを確認します。買戻し価格が将来の時価ではなく定率で上がるなら、年ごとの金額を表にします。
電子契約を使う場合も、画面上で署名できることと内容を理解したことは別です。不動産電子契約の確認点に沿って、売買契約、重要事項説明、賃貸借契約、査定書、本人確認、交付日時を別ファイルで保存します。家族へ転送できない閲覧期限付きURLだけでは、後日の比較と相談ができません。
媒介ではなく事業者が直接買い取る場合、仲介手数料がないことを高値の根拠と誤解しません。買取価格には再販売、保有、空室、修繕のリスクが織り込まれます。その差を説明できないなら、査定書に周辺成約、面積、築年、修繕履歴、賃料想定を追加してもらいます。
契約書を持ち帰れない、家族へ見せるなと言われる、査定根拠がない、家賃改定式が不明、退去条件を口頭でしか説明しない場合は署名しません。消費者ホットライン188、自治体相談、弁護士、司法書士、不動産鑑定士へ相談する時間を取ります。
持ち帰れない契約は進めず、売買と賃貸の不利な条件を別々に確認します。
「今日決めれば高く買う」は判断材料ではありません。通常売却を含む複数査定と、第三者が読んだ二つの契約書がそろうまで署名しません。
使うなら毎年の見直し日を決める
金利、家賃、満了、転居予備費を更新します。
リバースモーゲージは、金利、月支払、担保評価、修繕、火災保険、相続人連絡先を年一回見直します。リースバックは、家賃、契約満了、再契約通知、所有者変更、建物修繕、保証人、緊急連絡先を確認します。判断能力が落ちてからでは契約変更が難しいため、任意後見や財産管理の相談も早めに行います。
売却代金には税務確認も必要です。居住用財産の特例が使えるか、取得費を証明できるか、住宅ローン残高を完済できるかで手元額が変わります。税額を一律ゼロと置かず、購入契約、増改築領収書、登記事項、ローン残高証明を集め、税務署または税理士へ確認します。家賃は毎月の生活費になるため、年金の手取りと物価・賃料上昇を加えた資金表を作ります。
見直し結果は家族が見つけられる場所へ保管します。金融機関、不動産会社、保証会社、火災保険、固定資産税、契約満了、相談先を一枚にまとめ、契約者本人だけが知る暗証情報とは分けます。入院や認知機能低下の時に支払と更新が止まらないよう、代理権の範囲も専門家へ相談します。
退去資金は別口座に確保します。リースバックで得た資金を全て使い切ると、家賃上昇や再契約不可で転居が必要になった時に、敷金、引越し、施設入居金を払えません。リバースモーゲージでも、金利上昇と修繕が重なる年の予備費を残します。
契約時の受取額ではなく、住み終える日までの現金残高を毎年更新します。
まとめ
居住終了日まで払え、最後を説明できる案を選びます。
所有権を残し、住宅目的の資金を借りたいならリバースモーゲージが候補です。所有権を手放してまとまった現金を得る代わりに、借主として住むならリースバックです。どちらも家に住み続けられる期間と条件は、商品名ではなく契約で決まります。
居住終了日を仮置きし、10年分の利息または家賃、税・修繕、相続・退去を同じ日付で比べます。通常売却と住替えも外さず、契約当日の決断は避けます。
選ぶ基準は今もらえる金額ではありません。本人と配偶者が住み終える日まで払えること、そして最後の家と債務を家族が説明できることです。
参考情報
住宅融資、売買・賃貸、消費者相談の一次資料です。
以下は2026年9月4日に確認した一次情報です。
よくある質問
気になる質問を開くと、本文の重要点を短く確認できます。
Qリバースモーゲージとリースバックの一番大きな違いは何ですか?
A所有権です。リバースモーゲージは自宅を所有したまま担保に借り、リースバックは自宅を売却して借主になります。毎月負担だけでなく、死亡・退去時に家と債務がどうなるかも違います。
Qリースバック契約はクーリング・オフできますか?
A自宅を不動産業者へ売却した場合、クーリング・オフはできないと国民生活センターが注意しています。契約前に持ち帰り、複数査定と第三者確認を行います。
Qリ・バース60の資金を生活費に使えますか?
A住宅の建設・購入、リフォーム、住宅ローン借換えなど住宅関連の使途が中心です。金融機関ごとの条件と必要書類を確認し、自由な生活費向け商品と混同しないようにします。
Qリースバックなら一生住み続けられますか?
A商品名だけでは保証されません。普通借家か定期借家か、契約期間、更新・再契約、家賃改定、債務不履行、所有者変更時の扱いを賃貸借契約で確認します。
Qノンリコース型なら相続人に負担はありませんか?
A担保売却代金が債務へ届かない場合の残債請求を限定できますが、売却手続、残置物、期限、税・費用は残ります。商品条件を契約書で確認します。
Q買戻し特約があれば安心ですか?
A買戻し可能期間、価格算式、手数料、滞納時の失効、第三者への売却後も効くかを確認します。将来の買戻し価格を年ごとに金額で試算し、口頭説明に頼りません。