月末に勤怠システムが「残業82時間」と警告した。翌朝、全員へ産業医予約を入れれば法対応になるわけではありません。一般労働者、研究開発業務従事者、高度プロフェッショナル制度対象者では、数える時間、80時間・100時間の境界、本人申出の要否が異なります。管理監督者も労働時間の状況把握から外れるとは限りません。
一般の労働者は、週40時間を超える労働が一月80時間を超え、疲労の蓄積が認められ、本人が申し出た場合に医師による面接指導を行う仕組みです。事業者は80時間超の時間情報を本人へ通知します。「申出がなかった」で閉じる前に、本人が数字と窓口を知り、不利益を恐れず申し出られたかを確認します。
80時間と100時間は一つの予約条件ではありません。働き方区分ごとに、数える時間、疲労要件、本人申出、義務発動を分けた判定表を作り、勤怠確定後すぐ本人と産業保健へ渡します。
本記事は2026年9月9日に厚生労働省の面接指導案内、過重労働対策資料、労働安全衛生法・規則、働き方改革関連資料を確認しました。個別の就業措置は、本人の健康情報、業務、医師意見を用い、機械的な残業禁止や配置転換へ直結させません。
まず三つの時間と対象区分を切り分ける
通常残業の一列で全員を判定しません。
一般労働者の判定では、休憩を除き一週間当たり40時間を超えて労働させた時間を一月ごとに把握します。勤怠画面の「法定外残業」だけを使うと、法定休日労働、複数雇用、管理監督者、裁量労働の扱いがシステム設定で落ちるため、法令定義と計算式を照合します。
研究開発業務は、労働基準法第36条第11項の新たな技術、商品または役務の研究開発に係る業務を指します。部署名に「R&D」がある全員でも、IT開発者全員でもありません。担当業務の実態、36協定、職務記述を確認し、対象フラグを人事異動時に更新します。
高度プロフェッショナル制度では、労働時間ではなく健康管理時間を把握します。事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間の合計として管理し、週40時間を超える部分の一月100時間超を面接指導へつなぎます。成果給だから時間把握不要という制度ではありません。
管理監督者も第66条の8の3に基づく労働時間の状況把握の対象です。深夜の入退館、PCログ、会議、出張を含め、自己申告と客観記録の著しい差を補正します。役職名だけで通知・面接の母集団から外しません。
勤怠システムの「残業」表示を法定判定へ流用せず、一般・研究開発・高度プロの区分と計算式を従業員IDへ持たせます。区分不明者は対象外ではなく確認待ちです。
一般労働者の80時間超は通知と申出経路を同日に動かす
本人が数字と窓口を知る状態を作ります。
一般労働者が80時間を超えたら、その時間に関する情報を速やかに本人へ通知します。厚生労働省資料では、概ね二週間以内を目安とする案内があります。翌月給与明細まで待たず、確定値、対象月、面接申出方法、相談先を本人だけが読める方法で送ります。
面接指導は80時間超だけで自動成立するのではなく、疲労の蓄積が認められ、本人の申出が要件となります。とはいえ、申出書をイントラの深い場所へ置き、上司承認を必須にすれば、制度上の入口を狭めます。本人から産業保健・労務へ直接届く経路を用意します。
80時間以下でも健康への配慮が必要な労働者に対し、必要な措置を講ずるよう努める規定があります。睡眠不足、深夜業、連続勤務、既往症、急な負荷増加を産業医が把握できるよう、会社独自基準を衛生委員会で定めます。
本人が面接を希望しない場合も、数字、案内日、意向、相談先を記録し、上司へ健康情報を詳しく伝えません。次月も超過した人、急増した人には再通知し、「一度辞退したから今後も不要」と固定しません。
80時間超通知は残業実績のお知らせではありません。確定時間、対象月、申出先、不利益取扱いをしないこと、緊急相談先を本人へ同時に伝え、申出まで上司の許可を挟みません。
同じ100時間でも、研究開発は時間外・休日労働、高度プロは健康管理時間を使うため、判定経路を分けます。
研究開発の100時間超は本人申出を待たない
業務実態を確認して義務ルートへつなぎます。
研究開発業務に従事する労働者で、時間外・休日労働が一月100時間を超えた場合、事業者は本人の申出なしで医師による面接指導を行います。100時間ちょうどと「超える」の境界、集計月、端数処理を勤怠仕様へ書きます。
80時間を超え100時間以下の場合は、一般労働者と同様に本人の申出を受ける面接指導の仕組みがあります。99時間だから通知しない、100時間を超えた人だけ産業医へ渡す運用では、その間の申出機会が消えます。
研究開発の繁忙を「新製品前だから仕方ない」で常態化させません。実験時間、設備予約、夜間監視、論文・特許、会議、移動、持帰り作業を分解し、研究の中断が難しい作業と、工程変更できる作業を区別します。
月100時間超を検知したら、予約候補を本人へ提示し、管理職の都合で翌月末まで延ばしません。面接までの間も深夜作業、連続勤務、一人作業を減らす暫定措置を置き、急な体調悪化は通常予約とは別の医療・緊急相談へつなぎます。
研究開発業務の区分を誤っていたと分かった場合は、その人だけ直して終えません。同じ職務、プロジェクト、勤怠コードを使う人を再抽出し、過去月の80時間・100時間を再計算します。面接漏れがあれば、本人への説明、速やかな機会提供、就業負荷の是正を行い、区分マスタの承認者を見直します。
高度プロの100時間は健康管理時間で判定する
残業時間とは別の制度上の時間を使います。
高度プロフェッショナル制度の対象者では、健康管理時間が一週間当たり40時間を超えた部分について一月100時間を超えた場合、本人の申出を待たず面接指導を行います。会社にいた時間を全て労働時間と評価する話とは別に、健康確保のため把握する制度上の時間です。
在宅、顧客先、海外出張の事業場外時間を本人申告だけへ任せず、入退館、PC、予定表、移動記録を組み合わせます。監視のため無制限に位置情報を集めるのではなく、目的、閲覧者、保存期間、訂正方法を周知します。
高度プロ対象者には選択的措置や健康・福祉確保措置など制度固有の要件があります。面接指導だけを実施して制度全体が適法になるわけではありません。対象業務、年収要件、本人同意、委員会決議、撤回手続は別の監査表で確認します。
高度プロの100時間判定に通常の残業時間を流用しません。健康管理時間の定義、事業場内外の取得方法、本人確認を決め、申出なしの面接指導へ直接つなぎます。
面接前に医師へ渡す情報を役割で絞る
健康判断に必要な勤務事実をそろえます。
医師には対象月の時間、直近数か月の推移、業務内容、深夜・休日・連続勤務、健康診断、本人の疲労・睡眠・症状、職場で可能な措置を渡します。診断名の有無だけでなく、仕事と健康の関係を判断できる情報をそろえます。
上司の人物評価や「本人は弱い」といった所感を事実と混ぜません。案件名、納期、勤務、移動、休息、事故・ミスという観察可能な情報を渡し、本人から直接聴く内容を会社が先回りして決めません。
本人へは面接の目的、医師の守秘、会社へ伝わる範囲、費用、勤務時間の扱い、オンライン時の環境を説明します。面接指導を人事評価面談の部屋で上司同席にすると、症状や働き方を話せないため、個室と直接予約を用意します。
小規模事業場で産業医がいない場合は、地域産業保健センターなど公的支援の利用を検討します。50人未満のストレスチェックと同じ委託先を使っても、個人結果、面接目的、法定ルートを混ぜません。
医師意見を聞いて就業措置を決める
意見を具体的な業務変更へ翻訳します。
事業者は面接指導後、医師の意見を聴き、必要があると認めるときは就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業回数の減少等の措置を講じます。研究開発・高度プロでは法令上の読替えもあるため、対象区分に応じた措置候補を医師へ示します。
医師意見を「残業禁止」の一語へ縮めると、納期と人員が変わらず、本人だけが持帰り作業へ移ることがあります。担当業務、会議、夜間対応、出張、連絡可能時間、代替者、期限を管理職と調整し、実労働が減ったかを客観記録で確認します。
配置転換は健康保護の手段ですが、本人のキャリアや賃金へ大きな影響があります。健康上必要な範囲、期間、再評価日を決め、申出や面接を理由に不利益な扱いをしません。詳細な診断情報を異動先上司へ渡さず、就業上必要な制限へ翻訳します。
治療と仕事の両立支援の意見書を使う場合も、面接指導の記録と目的を区別します。主治医、面接医、産業医の意見が異なるときは、職務情報を補い、本人を交えた再確認を行います。
面接指導の完了は医師予約を消化した時ではありません。医師意見を具体的な業務・時間・深夜回数へ翻訳し、実施日と再評価日を記録して初めて健康確保措置になります。
抽象的な残業削減ではなく、本人の仕事から夜間対応や納期負荷を具体的に外し、再評価日を置きます。
記録を五年保存し健康情報へのアクセスを分ける
法定記録と医療情報を目的別に守ります。
面接指導の結果は、実施年月日、対象者、医師、本人の勤務状況、疲労蓄積、心身の状況、医師意見等を記録し、五年間保存します。勤怠システムのアラート履歴だけでも、診療録の写しを人事が保管することでもありません。
労務は対象判定と措置実施に必要な情報、医療職は面接内容、人事管理職は就業制限というように閲覧範囲を分けます。面接を申し出た事実が昇格会議や異動候補一覧へ流れないよう、連携項目と目的を定めます。
委託先変更時は、予約記録、法定記録、医師意見、未完了措置を安全に引き継ぎます。PDFを退職した担当者の個人フォルダへ残さず、保存年限、削除、アクセス監査、漏えい対応を契約に入れます。
勤怠、健康管理、予約のシステム間連携では、従業員番号、対象月、区分、閾値、再計算時刻を持たせます。氏名だけのCSVは同姓同名や改姓で誤配信し、異動前所属の上司へ健康情報が届く原因になります。連携エラーは対象者ゼロとして処理せず、未判定一覧へ隔離して当日中に復旧します。
保存期間が終わった記録も一括削除せず、法的保全、労災・紛争、継続措置の有無を確認します。削除実行者と対象を監査ログへ残し、委託先のバックアップやメール添付まで同じ保持方針が届いているかを契約更新時に試します。
本人が退職した場合も、退職日だけで法定保存期間を短縮しません。措置が継続中の人は、面接記録と現場の勤務実績を別々に散らさず、次回評価へ確実に渡します。
衛生委員会には個人を特定しない形で、対象者数、申出、面接実施、措置、繰返し超過、組織別傾向を報告します。安全衛生委員会の運用で個人症例を議事録へ書かず、長時間の背景と組織改善を審議します。
一人の時間から再評価までを翌月に持ち越さない
判定から負荷低下までを一件で監査します。
最終監査では、80時間または100時間を超えた一人を選びます。雇用・業務区分、時間計算、客観記録、本人通知、申出、予約、面接、医師意見、措置承認、勤務変更、再評価を時系列で開きます。
KPIは80時間超人数をゼロにするだけではありません。時間確定から通知まで、通知から予約まで、面接実施率、医師意見受領、措置開始、再評価、連続超過、申出経路の利用、客観記録との差を見ます。数字を良くするため業務時間を自己研鑽へ付け替えない監査も必要です。
急増した40時間と、半年続く75時間は別の危険を持ちます。法定義務の境界に届かない人も、睡眠、深夜、休日、健康状態を含む独自基準で拾い、管理職の増員・納期変更へ結び付けます。
長時間労働対応の完成は対象者リストを作った時ではありません。正しい時間区分で本人へ知らせ、医師意見を仕事の変更へ反映し、翌月の実績で負荷が下がったと確認した時です。
参考情報
80時間・100時間判定と就業措置を支える公式資料です。
以下は2026年9月9日に内容と到達性を確認した一次情報です。
よくある質問
気になる質問を開くと、本文の重要点を短く確認できます。
Q残業が月80時間を超えた全員へ面接指導が必要ですか?
A一般労働者は、週40時間を超える労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められ、本人が申し出た場合が法定面接の中心です。研究開発や高度プロは別基準です。
Q月80時間を超えたことを本人へ通知する期限はありますか?
A法令上の「速やかに」に対し、厚生労働省資料は概ね二週間以内を目安として示しています。確定後すぐ、時間、対象月、申出先を本人へ知らせます。
Q研究開発業務で月100時間を超えた本人が断ったら実施しなくてよいですか?
A研究開発業務の月100時間超は、本人申出を要件としない面接指導です。本人へ制度と健康保護を説明し、受診機会を確保します。
Q管理監督者は労働時間を把握しなくてよいですか?
A健康確保のための労働時間の状況把握から役職名だけで外しません。入退館、PCログ等の客観記録と自己申告を補正します。
Q面接指導の結果を直属上司へ共有してよいですか?
A共有は就業措置に必要な範囲へ絞ります。診断名や面接内容をそのまま渡さず、時間短縮、深夜回数、業務制限、再評価日へ翻訳します。
Q面接記録は何年保存しますか?
A労働安全衛生規則に基づく面接指導結果の記録は五年間保存します。対象判定、面接日、医師意見、実施措置を法定項目として管理します。