年間運送費が大きい会社でも、9万トン未満なら特定荷主の指定基準には届きません。逆に、単価の低い原材料を大量に扱う会社は物流費が目立たなくても対象になり得ます。2026年4月に全面施行された物流効率化法で、特定荷主の入口になる数字は前年度に取り扱った貨物の総重量です。
しかも、工場から出す製品だけを数えるのではありません。運送を委託する発側の第一種荷主と、到着日時・場所などを実質的に決める着側の第二種荷主があり、同じ会社が両方になる商流もあります。自社を「メーカー」「小売」と業種名だけで分類すると対象量を漏らします。
特定荷主の初動は、物流部が運賃を集計することではなく、全商流を第一種・第二種へ分け、前年度の貨物重量を根拠付きで9万トンと比較することです。
本記事は2026年9月8日に、経済産業省・国土交通省の制度ページ、荷主向けポータル、2026年説明資料、判断基準解説書、CLO資料、中長期計画記載例を確認しました。所管大臣、様式、期限は業種・指定時期で異なるため、提出前に最新手引きを確認してください。
第一種荷主と第二種荷主を商流で判定する
運送委託と受取条件を決める主体を分けます。
第一種荷主は、自らの事業に関して継続して貨物運送を委託する側です。製造会社が工場から販売先までの運送を物流会社へ委託する、卸が仕入先から自社倉庫までの集荷を手配する場面が該当候補です。所有権や運賃負担だけで決まらず、運送契約と指示の実態を見ます。
第二種荷主は、運送を直接委託していなくても、貨物を受け取る場所や日時などを決めることでドライバーの荷待ち・荷役へ影響する側です。小売センターが納品時間帯と検品方法を指定し、仕入先が運送契約を結んでいる場合、小売側は着側荷主としての役割を持ち得ます。
取引条件が「持込渡し」か「工場渡し」かだけで一律判定せず、発注書、物流委託契約、納品予約、入門ルール、検品手順を照合します。調達品、返品、社内拠点間輸送、廃棄物、輸出入コンテナも商流台帳へ入れます。
荷主性は商品の所有権ではなく、誰が運送を委託し、誰が受取日時・場所・方法を決めているかという実態で分けます。
年9万トンは会社の全拠点から積み上げる
出荷、入荷、返品、拠点間と推計根拠を集めます。
指定基準値は前年度の取扱貨物重量9万トン以上です。貨物の種類を問わず、対象となる荷主行為の重量を会社単位で把握します。代表工場だけを測り、倉庫、店舗、工事現場、返品センターを除くと指定判定を誤ります。
第一種荷主としての重量と第二種荷主としての重量は分けて判定します。第一種8万トン、第二種8万トンを合算して16万トンとするのではなく、どちらも9万トン未満ならその区分では届出対象になりません。片方だけ9万トン以上なら、基準を超えた区分で届け出ます。
重量データがない取引では、個数×標準重量、容積×換算密度、車両積載量×便数など合理的な推計方法を決め、根拠と誤差を残します。請求運賃から重量を逆算する方法は距離、車建て、附帯作業の影響が大きいため、送り状、WMS、購買、生産、販売の実績を優先します。
連結グループ全体を単純合算するのか、法人ごとに見るのかも整理します。子会社名義の委託、親会社の一括契約、共同配送では、契約主体と運送条件を決める主体が異なる場合があります。法的な届出主体と、グループで改善する運用単位を分けます。
出荷だけでなく入荷・返品・拠点間を洗い出し、推計値には算定根拠と誤差を残します。
9万トン判定の監査証拠は合計値だけではなく、含めた拠点・商流、除外理由、推計式、元データの所在です。
届出から指定までの初年度日程を分ける
指定、選任、計画、報告を別期限で管理します。
2026年度は特定荷主の指定に向け、前年度の取扱貨物重量等を届け出ます。説明資料では5月末までの届出、中長期計画は初年度10月末、2027年度以降は7月末、定期報告は2027年7月末という工程が示されています。指定日・所管大臣の案内に従って自社期限を確定します。
届出を出した日にすべての義務書類が同時提出になるわけではありません。重量把握、指定、CLO選任・届出、中長期計画、実施状況の計測、翌年度の定期報告を別のマイルストーンへ置きます。
事業所管大臣が複数になる事業では、担当省庁と提出経路を手引きで確認します。e-Gov電子申請へ添付する様式と社内の計算台帳を同じ版番号で管理し、提出後の照会に元データを出せるようにします。
CLOは物流部長の別名ではない
経営判断を変えられる地位と権限を置きます。
物流統括管理者は、特定荷主の事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者を充てる必要があります。物流現場の改善だけでなく、調達ロット、生産計画、納品条件、在庫、販売促進を変えるため、役員等の経営レベルが想定されます。
物流部長をCLOと呼び替えても、営業が当日追加便を出し、調達が少量多頻度を要求し、店舗が予約外車両を待たせる構造を止められなければ機能しません。CLOへ、部門KPIの変更、投資計画、取引条件の協議を経営会議へ上げる権限を与えます。
選任後は届出を行い、職務、代理、事務局、会議体、指標を規程化します。物流担当者が計測し、調達・生産・営業が改善を実行し、CLOが優先順位と予算を決める責任分界を置きます。
CLOの実効性は肩書ではなく、売上・在庫・生産の目標と衝突したときに物流条件を経営会議で変更できる権限で決まります。
中長期計画は設備の購入リストにしない
拠点別の基準値、目標、契約変更を計画します。
中長期計画には、荷待ち・荷役時間の短縮、積載効率向上など判断基準に沿う取組、目標、実施時期を記載します。予約受付システムやパレットを買うことだけでなく、どの拠点の何分を何分へ減らすか、誰と契約条件を変えるかを示します。
拠点差が大きい会社は、全社平均だけを目標にしません。荷待ち上位20拠点、バラ積み比率が高い商品群、積載率が低い配送レーンを選び、基準値、改善策、2026・2027・2028年度の到達点を置きます。
製造業の公式記載例には、進んでいる企業向けと、これから取組を深める企業向けがあります。先進例の数字をコピーせず、自社データが未整備なら最初の半年を計測範囲拡大、次を予約・荷姿標準化、最後を取引先横展開と段階化します。
荷待ちと荷役を運転日報だけで測らない
入退門工程を共通時刻で分解します。
トラックの到着、受付、バース呼出、荷役開始、荷役終了、出門を同じ時刻定義で取ります。ドライバーの自己申告、受付簿、予約システム、入退門ゲートの時刻がずれる場合は、定期報告に使う主データと補正方法を決めます。
平均時間だけでは、特定曜日の4時間待ちが隠れます。中央値、90パーセンタイル、60分超の便数、予約内外、発着別、荷役方式別を見ます。荷主都合の待機と、ドライバーの早着、事故渋滞を区別する判定ルールも必要です。
荷役は積卸しだけでなく、検品、ラベル貼り、棚入れ、附帯作業を誰が行ったかを記録します。無償の荷役を運送会社へ押し付けて時間だけ短縮すると、取引適正化と安全を損ないます。
荷待ち改善は平均値を下げる競争ではなく、到着から出門までの工程と責任者を同じ時刻定義で可視化する作業です。
積載効率は欠品・品質と一緒に見る
輸送効率の副作用を在庫・品質指標で監視します。
積載率を上げるために発注をまとめると、店舗在庫、賞味期限、欠品、生産停止へ影響します。重量・容積の積載効率だけでなく、納品リードタイム、在庫日数、欠品率、廃棄、緊急便を一組で追います。
混載、共同配送、モーダルシフト、パレット標準化は有力でも、温度帯、危険物、荷崩れ、納品時間、回収容器が合わなければ使えません。対象レーンを分け、輸送品質とCO2、費用を同じ期間で比較します。
営業が顧客ごとの締切を細かく約束し、生産が完成順に出荷し、物流が後で車両を集める構造では積載が安定しません。受注締切、最小発注、出荷曜日、納品時間帯を契約・サービスレベルへ戻します。
時間短縮と積載向上を別々に追わず、在庫・欠品・安全への副作用まで経営指標へ入れます。
定期報告に耐える証拠を月次で残す
同じ定義で重量・時間・効果を締めます。
定期報告の直前に12か月分を集めると、時刻定義や欠測理由が拠点ごとに違って修正できません。月次で重量、荷待ち、荷役、積載、取組、投資、効果を締め、CLO会議で異常値と未計測拠点を確認します。
予約システム導入済みを成果にせず、利用率、予約外車両、待機分布、キャンセル、ドライバー入力負担を測ります。パレット導入も、荷役時間、破損、回収、保管場所、取引先負担を追い、単なる購入台数にしません。
外部倉庫や3PLへ委託しても、荷主の報告根拠が自動的に整うとは限りません。契約へデータ項目、粒度、提供日、修正、監査権を入れ、委託先変更時にも過年度データを保持します。
定期報告の品質は提出月ではなく、毎月同じ定義で締めた重量・時間・効果と、欠測を説明できる証拠で決まります。
取引先協議は待機時間の請求だけで終えない
三者の原因と変更条件を便別データで合意します。
荷待ちの原因が発注変更、予約枠不足、検品、パレット不統一のどこにあるかを便別データで示し、荷主、運送会社、倉庫の三者で改善します。平均待機時間だけを提示して責任を押し付けず、各者が変えられる条件を分けます。
発注締切の前倒し、納品曜日の集約、予約枠拡大、検品省略、パレット化には費用と在庫影響があります。便数、車格、積載率、荷役人員、保管場所、欠品を同じ試算へ入れ、運送会社だけが追加負担する案を避けます。
契約書には運送業務と荷役・検品等の附帯作業を分け、作業内容、料金、待機発生時の連絡、キャンセル、データ提供を明記します。実際の現場が契約と違う場合は、現場へ我慢を求めず契約・発注条件を更新します。
協議記録は会議開催数ではなく、対象便、基準値、合意事項、担当、期限、効果、未解決理由を残します。中長期計画と定期報告へ使う数字が、取引先との運用変更までつながっているかをCLOが確認します。
取引先協議の成果は議事録の数ではなく、待機・荷役を生む発注、予約、検品、荷姿の条件が契約と現場で変わったかです。
90日で指定対応を立ち上げる
対象判定から経営承認まで三段階で進めます。
最初の30日で、法人・拠点・商流一覧を作り、第一種・第二種荷主を判定し、前年度重量を集計します。9万トン前後なら推計誤差を幅で示し、所管官庁へ相談できる論点表を作ります。
次の30日で、届出、CLO候補、事務局、指標定義を決めます。荷待ち上位拠点を仮説で選び、ゲート・予約・日報データを一週間突合します。契約やシステム不足は中長期計画の前提課題にします。
最後の30日で、経営会議が目標、予算、取引先協議、中長期計画案を承認します。初年度に全拠点を同じ深さで変えず、影響が大きくデータを取れる拠点から始め、翌年度の定期報告へ測定可能な成果をつなぎます。
90日計画の出口は書類提出ではなく、対象重量の根拠、CLOの権限、重点拠点の基準値、翌月も続くデータ締めがそろうことです。
指定外の荷主も何もしなくてよいわけではない
指定基準と全荷主の努力義務を分けます。
9万トン未満で特定荷主に指定されなくても、2025年4月から荷主・物流事業者の努力義務と判断基準が施行されています。CLOの法定選任義務がなくても、物流効率化の責任者を置き、荷待ち・荷役・積載を把握することが求められます。
指定基準ぎりぎりまで計測を避けるより、取引先から待機時間や附帯作業の改善を求められる前に上位拠点を測る方が実務的です。物流戦略2026〜2030、物流KPI設計、トラック予約受付システム比較、貨物運送契約の附帯作業料金へつなぎ、法定最低線と経営改善を分けます。
9万トンは改善を始める境目ではなく、追加の法定義務が発生する指定基準です。すべての荷主に努力義務がある前提は変わりません。
指定基準未満の会社も、取引量の増加、M&A、新工場、共同配送の開始で翌年度に9万トンを超える可能性があります。月次重量へ基準比を表示し、8万トンを超えた段階で算定範囲を再点検します。法定届出のためだけに別集計を作らず、運賃交渉、CO2算定、在庫設計に使う物流データと同じ元帳へつなげます。
年度末に急増したスポット便や工場移管は、年間合計だけでなく翌年度の平常量を変えます。CLO候補は予算策定時に物流量の見込みを確認し、指定後に初めて投資を申請する遅れを避けます。
参考情報
指定判定、CLO、計画、報告を支える公式資料です。
以下は2026年9月8日に内容と到達性を確認した一次情報です。
よくある質問
気になる質問を開くと、本文の重要点を短く確認できます。
Q物流費が高い会社は特定荷主ですか?
A物流費ではなく、前年度に取り扱った貨物重量が9万トン以上かを基準に指定対象を判定します。発荷主・着荷主の商流も確認します。
Q自社でトラックを持たなければ荷主ではありませんか?
A運送を委託する第一種荷主、受取日時・場所等を決める第二種荷主に該当し得ます。自社便の有無だけでは決まりません。
QCLOは物流部長を選任すればよいですか?
A事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位が必要です。物流部長がその権限を持つか、調達・生産・営業の条件を変えられるかを確認します。
Q9万トン未満なら物流効率化法への対応は不要ですか?
A特定荷主の追加義務はありませんが、すべての荷主に努力義務と判断基準があります。責任者を置き荷待ち・荷役・積載を把握します。
Q貨物重量が分からない取引は除外できますか?
A合理的な推計方法を決め、個数、標準重量、容積、便数などの根拠と誤差を残します。分からないことだけを理由に対象外にはしません。
Q中長期計画は予約システムの導入計画ですか?
A設備購入だけでは足りません。どの拠点の荷待ち・荷役・積載を、誰との契約・運用変更で、いつまでにどの数値へするかを示します。
Q第一種8万トンと第二種8万トンは合算して届出しますか?
A合算しません。第一種荷主と第二種荷主の重量を区分してそれぞれ9万トンと比較し、基準を超えた区分だけを届け出ます。