求人サイトが「あなたに合う10社」をAIで選び、候補者にはその10社しか見せない。さらに運営担当が「この経験なら年収600万円で通る」と書き加え、応募メールを直して面接日時も調整する。画面には求人メディアと書いてあっても、実際に行う選別、加工、意思疎通への関与は職業紹介の判断材料になります。
職業紹介とは、求人と求職の申込みを受け、求人者と求職者の間の雇用関係の成立をあっせんすることです。募集情報等提供は、募集情報や求職者情報を収集・提供する事業です。AIを使うか、人が操作するか、SaaSか受託かという商品名では線を引けません。
「AIが自動で選んだので職業紹介ではない」は成り立ちません。全件閲覧の可否、運営者判断による個別選別・加工、連絡内容への介入、雇用成立をあっせんする実態を機能ごとに確認します。
本記事は2026年9月9日に、厚生労働省の区分基準、募集情報等提供事業案内、業務運営要領、職業安定法・施行規則、審議会資料、具体的なリコメンド例を確認しました。新機能の法的区分は契約、広告、画面、営業運用を含む個別事実で変わるため、公開前に都道府県労働局へ具体的なフローを示して相談してください。
まず求人・求職の申込みを誰が受けるかを描く
雇用成立までの役割を主体ごとに分解します。
求人企業が掲載を申し込み、求職者が企業へ直接応募し、運営者が連絡内容へ関与しないモデルは、情報提供を中心に設計できます。運営者が求人と求職の申込みを受け付け、条件を照合し、双方へ雇用成立を働きかけるほど、職業紹介の性質が強くなります。
「応募ボタンが企業サイトへ移動するから情報提供」と決めつけません。運営者の営業が候補者へ応募を勧め、企業へ推薦理由を送り、面接、条件交渉、内定承諾を調整しているなら、ボタンの遷移先だけで実態を説明できません。
業務フローには、入力者、判断者、出力、閲覧可能範囲、連絡先、料金発生点を置きます。AIモデル、カスタマーサクセス、採用代行、企業担当、候補者の誰が、どの条件を変えられるかを権限表へします。
有料職業紹介事業の許可・手数料を既に持つ会社でも、求人メディア側の個人情報、表示、契約を自動的に同じ扱いにできません。サービスごとに法的役割と利用規約を分けます。
区分表の最初の列はAIモデル名ではなく、求人申込み、求職申込み、選別、加工、連絡、面接、条件交渉を誰が実行するかです。
全件を見られる推薦と推薦だけを見せる設計を分ける
おすすめ表示の裏にある閲覧可能範囲を見ます。
厚生労働省の具体例では、サイト上で全求人を検索できる状態にした上で、閲覧履歴やAIにより一部をメール等で勧めるだけなら、「選別した情報のみ提供」に該当せず、募集情報等提供にとどまり得る考え方が示されています。
一方、運営者の判断で選んだ求人だけを特定の求職者へ提供し、他の求人へアクセスできない設計は、選別した情報のみを提供する行為として職業紹介に該当し得ます。「おすすめ」というラベルは同じでも、母集団へのアクセスが違います。
会員区分によって見られる情報が違う場合も、利用者が違いをあらかじめ認識し、自ら会員区分を変更できる設計なら、直ちに運営者判断の選別とはならない例があります。ただし、高額会員へ求人を増やす料金設計と、個人の適性を判断して求人を隠す設計は分けます。
テストでは、同じ求人条件の架空利用者を複数作り、検索可能件数、推薦件数、非表示理由、設定変更を比較します。モデル更新で全件閲覧が消える、検索結果上限が極端に狭まる、営業が手動除外する変更をリリース審査へ上げます。
推薦順位の評価ではクリック率だけを見ません。同じ職歴・希望条件を入力したテスト人物を用意し、年齢、性別、国籍、障害など職務適性と直接関係しない属性を変えたときに、表示件数、順位、非表示理由がどう変わるかを記録します。差が出た場合はモデルの精度という言葉で閉じず、入力項目、代理変数、学習データ、運営者の手動ルールを分解します。
推薦カードの文章が同じでも、利用者が全件へ到達できるか、運営者が選んだ求人だけに閉じ込めるかで評価は変わります。検索・推薦・非表示を一緒に試験します。
個人向けの文言追加は表示順より深い加工になり得る
順位変更と新たな判断の付加を分けます。
求人者や求職者の閲覧履歴等に基づき、単に異なる表示順で求人情報を提供することは、新たな情報を加えていないため、個別加工に該当しない例が示されています。しかし、求職者の職歴を踏まえ「月額○万円で採用される可能性がある」といった文言を付けると、提供相手に応じた加工として職業紹介に該当し得ます。
「マッチ度95%」「内定可能性が高い」「あなたの市場価値は650万円」という表示は、計算機能に見えても、応募判断を強く動かします。誰のどのデータを使い、求人企業が出していない情報を付加したか、誤りを誰が訂正するかを確認します。
企業認定、勤務地、公開給与など、全利用者へ共通の公的・求人情報を付加することと、個人の採用可能性を断定することを分けます。表示名だけを「参考スコア」に変えても、営業が内定見込みとして説明すれば実態は変わりません。
表示順の変更と、個人向けの新しい判断を付加する加工を、画面の出力差から分けます。
メッセージ中継は内容を誰が変えるかを見る
原文と相手へ届いた文面を比較します。
求人者と求職者が入力したメッセージをシステムがそのまま中継する機能と、運営者が内容を編集、要約、選択、返信する機能は同じではありません。運営者の判断で意思疎通を加工し、面接や採用へ導く場合、職業紹介の基準に触れ得ます。
迷惑表現や個人情報を機械的に検出する安全機能でも、ブロック、書換え、代理返信の範囲を定義します。候補者の文章を生成AIが「採用されやすい内容」へ自動変更し、企業には元文が見えない設計なら、単なる通信手段と説明しにくくなります。
カスタマーサクセスが面接日を候補として表示するだけか、双方へ働きかけて日程を確定するか、条件交渉を伝言するかも分けます。利用規約に「当社は関与しません」と書いても、実務担当者が日常的に介入すれば契約文だけでは守れません。
メッセージ機能の審査では、通信経路より編集権限を見ます。原文、AI生成案、担当者修正、送信者、相手に見えた文面を同じスレッドで再生できるようにします。
求職者情報を使うなら特定事業の届出を判定する
収集データと提供先から事前届出を確認します。
募集情報等提供事業のうち、労働者になろうとする者の情報を収集し、情報提供に使用するものは特定募集情報等提供事業に当たり、事前の届出が必要です。履歴書を企業へ見せる人材データベースだけでなく、職歴、閲覧、応募、希望条件を企業向け提供へ使う設計を確認します。
届出は原則オンラインで行い、毎年8月31日までに、その年の6月1日時点の事業状況について概況報告書を提出します。サービス開始日、名称、URL、情報種別、提供先、事業所の変更を台帳へ持ち、届出済みブランド名と実際のドメインがずれないようにします。
個人情報は職業安定法上のルールと個人情報保護法の双方を確認します。採用と関係のない情報を収集しない、利用目的を示す、求人企業の閲覧権限を期限付きにする、利用停止・訂正・削除の窓口を置く、委託先と学習利用を明示します。
求職者が推薦理由を問い合わせたとき、営業担当が「AIの判断です」と答えるだけでは訂正につながりません。登録情報、推定属性、除外条件、企業側条件、広告枠を切り分け、誤った資格や勤務地が使われたなら再計算できるようにします。訂正前後の表示差と、同じ誤りが他の求職者へ波及していないかも記録します。
採用媒体の選び方を読む求人企業にも、媒体が情報提供、職業紹介、採用代行のどの役割を担うかが分かる表示が必要です。成功報酬、応募保証、候補者連絡の約束が契約上の役割を変えていないかを見ます。
2025年以降の金銭・料金表示ルールも製品要件へ入れる
キャンペーンと契約料金を同じ審査へ載せます。
厚生労働省は、2025年4月施行のルールとして、募集情報等提供事業者が労働者になろうとする者へ金銭やギフト券等を提供することを原則禁止し、求人者等に誤解が生じないよう利用料金や違約金の定めをあらかじめ明示する対応を案内しています。
友人紹介、応募特典、登録キャンペーン、ポイント交換を、マーケティング施策という理由だけで法務審査から外しません。誰に、何の行為の対価として、いつ、いくら相当を付与するかを整理します。既存会員の行動データを集めるキャンペーンなら個人情報の目的も確認します。
料金ページでは、掲載、クリック、スカウト、応募、採用、オプション、契約期間、解約、違約金、返金を同じ単位で示します。営業提案書だけに割引条件を書き、利用規約に高い違約金を残すような不一致を避けます。
機能追加のたびに広告・契約・運用を同時審査する
仕様書だけでなく営業と実画面を検証します。
境界判定はローンチ時の一回で終わりません。推薦モデル、チャット、生成AI文章支援、面接予約、成功報酬、採用代行を追加すると、情報提供だったサービスが雇用成立へ深く関与することがあります。
変更審査票には、利用者に見える画面、裏側のモデル入力、非表示条件、人の介入、営業トーク、利用規約、料金、ログ、問い合わせ対応を書きます。法務が仕様書だけを読み、実際の営業デモを見ない審査では、現場の「応募を確約します」という説明を拾えません。
個人データ漏えい時の報告・本人通知と接続し、応募書類、推薦スコア、チャット、面接評価を扱う委託先ごとに事故連絡期限を決めます。推薦機能を外部APIへ切り替えたのに、プライバシー表示と削除経路が旧モデルのままという変更漏れを公開判定で止めます。
公開前に、求職者、求人企業、運営担当の三者で一件を再生します。推薦されなかった求人へ到達できるか、スコア根拠を訂正できるか、メッセージが誰に書き換えられたか、採用成立まで誰が促したかを確認します。
仕様書だけでなく、利用者画面、営業説明、担当者介入、ログを同じ公開判定へ載せます。
境界を超えるなら名称変更でなく許可と運用を整える
事業価値に合う法的役割を正面から選びます。
職業紹介へ該当する機能が事業価値の中心なら、機能を隠すのではなく、許可要件、職業紹介責任者、求人・求職管理、労働条件明示、手数料、返戻金、個人情報、苦情、事業報告を設計します。情報提供機能と紹介機能を画面、契約、データ、担当組織で明確に分けます。
反対に情報提供へとどめるなら、人による候補者選定、応募勧奨、代理返信、日程調整、条件交渉が運用で復活しない統制を置きます。AIの出力を人が最終承認するだけで適法になるわけでも、人を外せば情報提供になるわけでもありません。
求人企業向けの管理画面に「おすすめ候補者」だけを出し、他の登録者へ到達できない設計も、求職者側の推薦と同じ観点で確認します。スカウト代行担当が候補者を追加選別する、返信文を編集する、面接へ促す場合は、その行為を単なるシステム保守として扱いません。画面権限と実際の担当者行動を月次ログで突き合わせます。
KPIは応募数と採用数だけでなく、全件到達率、推薦理由の訂正、非表示件数、手動介入、メッセージ書換え、苦情、利用停止、届出・許可範囲外の機能を追います。成約報酬だけを営業目標にすると、情報提供の担当者が実質的なあっせんへ進みやすくなります。
監査対象は成約した利用者だけにしません。推薦が一件も出なかった人、応募直前で除外された人、訂正を求めた人、退会した人を含めます。表示されなかった理由を再生できなければ、求人企業と求職者の双方に対してサービスの役割と選別実態を説明できません。
最終判定はサービス名や利用規約の一文ではなく、一人の求職者が求人を見つけ、応募し、面接し、採用されるまでの実画面と担当者行動を再生して行います。
参考情報
区分基準、届出、AI推薦例を支える公式資料です。
以下は2026年9月9日に内容と到達性を確認する一次情報です。
よくある質問
気になる質問を開くと、本文の重要点を短く確認できます。
QAIが自動で求人を選ぶなら職業紹介ではありませんか?
A自動か人手かは手段です。運営者の判断による個別の選別・加工、意思疎通への介入、雇用成立のあっせんという実態から判断します。
Q閲覧履歴に基づくおすすめ求人は許可が必要ですか?
A全求人を検索・閲覧できる上で一部を表示・配信するだけなら情報提供にとどまり得ます。推薦求人しか見られない、個別の採用可能性を付加する場合は別に検討します。
Qマッチ度や想定年収を表示すると職業紹介になりますか?
A単なる表示順か、求職者ごとに新しい判断を付加する加工かを確認します。求人企業が出していない採用可能性や給与見込みを個人向けに示す機能は職業紹介に該当し得ます。
Q候補者のメッセージを生成AIで直す機能は問題ですか?
A原文案を本人が選んで送る支援と、運営者が内容を加工して相手へ送る中継を分けます。誰が最終文面を決め、相手に何が見えたかをログで再生します。
Q特定募集情報等提供事業はいつ届出が必要ですか?
A求職者に関する情報を収集し、募集情報等提供へ使う事業は事前届出の対象です。毎年8月31日までに6月1日時点の概況報告も必要です。
Q職業紹介の許可を取れば求人メディアの審査は不要ですか?
A不要にはなりません。情報提供と職業紹介で、利用規約、個人情報、料金、担当者、管理簿を分け、各機能がどちらの運用へ属するかを明示します。