塗料を年間1.2トン買った工場が、PRTRで1.2トンをそのまま届け出るわけではありません。塗料中の対象物質濃度をSDS等で確認し、期首在庫、購入、製品としての搬出、反応・処理、期末在庫をつないだ上で、大気や水域へ出た量と、廃棄物・下水として外へ移った量を算定します。
その前に、会社が届出対象事業者か、どの事業所・どの物質が対象かを判定します。対象業種、事業者全体の常用雇用者21人以上、事業所ごとの年間取扱量1トン以上、特定第一種指定化学物質0.5トン以上という条件は、同じ単位で見る数字ではありません。
PRTR判定は「工場に化学物質があるか」から始めません。対象業種、法人全体の従業員数、事業所ごとの物質取扱量、特別要件施設を順番に通し、該当物質だけ排出・移動量へ進めます。
本記事は2026年9月9日に経済産業省の2025年版届出手引き、対象判定Q&A、化学物質管理セミナー資料、環境省PRTRインフォメーション広場、NITE届出案内、e-Gov法令検索を確認しました。物質一覧、管理番号、様式は制度改正で変わるため、提出年度の公式ファイルを使用してください。
対象業種は主業だけでなく兼業を含めて確認する
24業種の工程を法人の全事業から探します。
PRTRは政令で定める24業種を対象とします。製造業だけでなく、金属鉱業、電気業、ガス業、下水道業、廃棄物処分業、倉庫業、洗濯業、写真業、自動車整備業などが含まれます。会社登記や日本標準産業分類の主業種名だけで対象外と決めません。
同じ法人が小売を主業としながら、自社工場で化粧品を製造する、物流拠点で対象物質を扱う、車両整備工場を持つ場合があります。対象業種を一部でも営み、他の要件を満たす事業所があれば判定へ進みます。売上比率が小さい兼業を無視しません。
本社の管理部門が対象業種でなくても、対象工場の届出者は法人です。反対に、取引先が製造業だから、その構内で清掃をする全ての請負会社が対象になるわけではありません。自社が営む事業、管理する事業所、取り扱う物質を契約と実態から区別します。
新規事業、M&A、内製化、設備保守の受託が始まったら業種判定を更新します。前年の届出対象一覧を複写すると、取得した事業所や新しい工程が一年抜けます。
業種判定には会社の主業種コードだけを使いません。法人が営む全事業を見て、対象業種の工程がある事業所を地図と組織表へ戻します。
21人は工場ごとでなく事業者全体で数える
正社員数だけで人数要件を決めません。
常時使用する従業員数21人以上は、原則として事業者全体で判定します。対象物質を扱う工場に8人しかいなくても、同じ法人の本社・他拠点を含む常用雇用者が21人以上なら人数要件を通ります。
人数には正社員という名称だけでなく、常時使用するパート・アルバイト等が含まれ得ます。派遣労働者は派遣元と派遣先の扱い、役員、他社請負、短期雇用を公式Q&Aの考え方で分類し、給与台帳の正社員数をそのまま使いません。
年度のどの時点で数えるか、雇用期間や勤務日数をどう扱うかを判定メモへ残します。人事が持つ在籍数と、環境部が前年に使った数の差を調べ、21人付近の法人では対象者リストを個別確認します。
会社分割や合併があった場合は、把握対象年度の事業者と届出時の承継関係を整理します。事業所が同じ場所で続いても法人が変われば、従業員数、取扱量、届出者を一つの前年コピーで処理しません。
1トン・0.5トンは物質ごと、事業所ごとに判定する
製品を越えて同じ指定物質を合算します。
第一種指定化学物質の年間取扱量は事業所ごと、物質ごとに1トン以上が原則です。特定第一種指定化学物質は0.5トン以上へ下がります。複数の製品に同じ対象物質が入っていれば、塗料、洗浄剤、接着剤という商品区分を越えてその物質量を合算します。
年間取扱量は購入量だけではありません。期首・期末在庫、受入、製造、使用、他拠点からの移入を工程に合わせて把握します。10月に2トン買って翌年度まで未開封で残る場合、購入日だけを使用量とみなす計算と、実際の取扱いを区別します。
対象物質を含む製品は、原則として第一種指定化学物質1質量%以上、特定第一種0.1質量%以上の含有を確認します。ただし、固有の形状を有し使用中に対象物質を放出しない成形品、密封製品、一般消費者用製品、再生資源など、製品要件の除外があります。商品名だけで除外せず使用工程まで見ます。
SDSで含有率に幅がある場合、最小値を選んで基準未満にしません。供給者へ確認するか、公式手引きに沿う保守的な算定を行い、採用値と理由を残します。企業秘密で濃度が読めない場合も、対象判定に必要な情報の提供方法を供給者と調整します。
1トン・0.5トンは製品重量ではなく、対象物質の重量です。同じ物質を含む複数製品を事業所内で合算し、濃度、在庫、使用工程まで再現できる計算表を作ります。
商品ごとではなく管理番号・物質ごとに含有量を集め、1トンまたは0.5トンの境界を判定します。
特別要件施設は取扱量が少なくても別ルートで拾う
施設・測定義務から対象を抽出します。
鉱山保安法上の関連施設、下水道終末処理施設、廃棄物処理施設、ダイオキシン類対策特別措置法の特定施設など、法令で定める特別要件施設を持つ事業所は、年間取扱量だけでは判定できません。対象物質・測定対象との関係を施設台帳から確認します。
「薬品を1トン使っていないから対象外」と購買集計だけで閉じると、排水・排ガス等の測定義務に基づく対象を落とします。環境許可台帳、施設届出、測定計画、行政報告をPRTR判定表へ結び付けます。
特別要件施設だから515物質すべてを一律に届けるわけではありません。施設区分と他法令で測定対象となる物質、ダイオキシン類等の扱いを公式手引きで確定し、担当者の過去経験だけで物質を増減しません。
施設を廃止・休止・更新した年度は、稼働期間と廃止届、残存薬品、汚泥・廃棄物を記録します。設備台帳から削除した後も、把握対象年度内の排出・移動があれば翌年度届出の検討が残ります。
特別要件施設は年間取扱量の例外入口です。購買データに物質が出なくても、許可・施設・測定義務の台帳からPRTR対象を拾います。
排出四経路と移動二経路を混ぜずに物質収支を作る
購入量ではなく環境経路別の量を算定します。
届出の排出量は、大気への排出、公共用水域への排出、事業所内の土壌への排出、事業所内埋立処分の四区分です。移動量は、下水道への移動と、廃棄物として事業所外への移動の二区分です。排水処理後に河川へ出す量と、公共下水へ流す量を同じ「水」へまとめません。
算定には物質収支、実測、排出係数、物性値などの方法があります。入力量から製品、反応消費、回収、在庫変化、廃棄物を差し引く物質収支では、小さな入力誤差が排出量へ集まるため、全てを「大気排出」とする前に工程と方法を確認します。
廃液を外部委託した量は事業所外移動ですが、廃液全量ではなく含まれる対象物質量を算定します。マニフェスト重量、分析値、SDS濃度、含水率のどれを使ったかを残し、kgとt、mg/Lとm3の単位を二人で照合します。
化学物質管理者と保護具着用管理責任者の違いで扱う労働安全衛生上の管理線と、PRTRの集計線は別です。同じSDSを使っても、PRTRでは事業所境界、管理番号、年度在庫、排出経路、算定式、届出ファイルの出力まで試験します。
排水処理で分解・除去された量、汚泥へ移った量、揮発した量を工程図へ置きます。除去率は設備カタログの最大値ではなく、運転条件と測定結果に合う値を使います。年度途中の活性炭交換、集じん機故障、溶剤変更を算定期間へ反映します。
リスクアセスメント対象物健康診断は労働者ばく露の管理です。同じSDSと化学物質台帳を使えても、PRTRの環境排出・移動量と、作業者の健康診断対象を同じ閾値で決めません。
SDSと購買名を管理番号へ名寄せする
商品名が変わっても同じ物質を追います。
対象物質は名称の表記揺れ、塩、異性体、金属換算、化合物群で誤りが出ます。仕入先商品名やCAS番号だけでなく、PRTRの管理番号、政令番号、正式物質名へ名寄せします。制度改正後も旧政令番号を正本キーにすると前年比較が切れるため、管理番号を軸に版を持ちます。
購買システムの一商品に複数SDS版がある場合、使用期間とロットへ適用します。最新版SDSを一年分へ遡って使い、濃度や対象区分が変わったように見せません。SDS受領日、改訂日、使用開始、旧版保存を記録します。
現場がホームセンター等で立替購入した洗浄剤、保守会社が持ち込む薬品、試験用サンプルは中央購買から抜けます。経費、入場薬品申請、廃棄物、作業標準を突合し、量が小さいと確認できるまで母集団から外しません。
成形品除外は「固体だから」ではありません。使用中に切断、研磨、溶融して対象物質が出る製品は、使用形態を確認します。供給者がSDS交付不要とした理由も記録し、受領の有無だけでPRTR対象外としません。
物質台帳の主キーは仕入先の商品名ではなく、PRTR管理番号と適用SDS版です。商品名変更や仕入先追加があっても同じ物質を合算できる状態にします。
物質の入口から製品・排出・移動・在庫までを工程図へ置き、差分を根拠なく一つの経路へ寄せません。
4月1日から6月30日に前年度分を事業所ごとに届け出る
過去の期限延長を恒久運用にしません。
把握対象期間は前年4月1日から翌年3月31日までで、届出期間は毎年4月1日から6月30日までです。6月30日が土日の場合の取扱いなどは提出年度の手引きを確認します。2022年度から2024年度までの電子届出期限延長を、恒久的な7月末期限と読み違えません。
届出書は事業所ごとに作り、物質ごとの別紙を付けます。本社が全国分を提出しても、一枚へ合算する制度ではありません。廃止事業所、年度途中移転、合併・承継は公式Q&Aに沿って届出主体と事業所名を決めます。
電子届出はNITEのPRTR届出システムを利用します。GビズID等の準備、代理権、自治体確認、差戻しを見込み、6月末に初回ログインしません。前年ファイルを複製する場合も、管理番号、対象物質、代表者、事業所、排出先水域を最新マスタと照合します。
提出後は受付結果、提出ファイル、計算表、SDS、測定、承認を版固定します。修正届を出した場合は理由と差分を残し、外部公表データと社内環境報告の数字が違う理由を説明できるようにします。
PRTRの通常届出期間は4月1日から6月30日です。過去の電子届出期限延長を翌年度へコピーせず、前年度実績を事業所・物質ごとに所定期限へ提出します。
公表値を近隣説明と工程改善へ戻す
経路の変化と実削減を分けて説明します。
国は届出データを集計・公表し、個別事業所の情報も開示・地図表示されます。法定届出は社内だけの数字ではありません。前年からの大幅増加、同業他事業所との差、ゼロからの発生について、工程変更、算定改善、事故、増産を説明できるようにします。
排出量が減って移動量が増えた場合、環境負荷が単純に消えたわけではありません。廃液として外部処理へ移した、下水へ切り替えた、回収を増やしたなど経路変化を追います。コスト、廃棄物、処理能力、地域リスクを合わせて改善案を選びます。
公表前の地域問い合わせを想定し、物質の用途、排出経路、管理設備、前年差、健康影響の公的情報、削減計画を準備します。法定値以下だから安全という説明も、物質名だけで危険を強調する説明も避け、数量、経路、基準、対策を分けます。
経営KPIには届出物質数より、排出原単位、回収率、溶剤代替、漏えい、廃棄物移動、データ不確実性を置きます。排出量を減らすため算定方法だけを変更した場合は、実削減と計算差を別線で表示します。
一物質を容器から公表値まで再生する
届出値の根拠を工程へ遡ります。
最終監査では、届出量が大きい一物質を選びます。対象業種、21人判定、事業所、管理番号、SDS版、濃度、購入、在庫、工程、測定、排出四経路、移動二経路、計算、届出ファイル、受付、公表を順に開きます。
KPIは期限内提出率だけではありません。SDS未更新、商品名未名寄せ、現場購入未把握、単位エラー、収支差、推計率、前年差未説明、特別要件施設未照合、修正届、自治体差戻しを追います。届出ゼロ件という結果も、対象外判定の証拠がなければ品質とは呼べません。
次年度準備は4月からではなく、月次の入出庫・廃棄・測定から始めます。工程変更時に計算式を更新し、期末棚卸で対象物質在庫を確認すれば、二か月で一年分を推測する作業を避けられます。
製造現場の運用障害と復旧を記録するときは、集じん機停止、排水処理逸脱、溶剤回収停止がPRTR算定へ与える期間と量も残します。設備を復旧しても、異常期間の排出推計が通常係数のままなら届出値には事故が反映されません。
PRTR対応の完成は届出システムで送信した時ではありません。一物質のSDSと容器から公表値まで再生でき、その数字を工程改善と地域説明へ戻せる時です。
参考情報
対象判定、算出、届出期限を支える公式資料です。
以下は2026年9月9日に内容と到達性を確認した一次情報です。
よくある質問
気になる質問を開くと、本文の重要点を短く確認できます。
Q従業員が8人の工場はPRTR対象外ですか?
A工場単独ではなく事業者全体の常時使用する従業員数を確認します。同じ法人の本社や他拠点を含め21人以上で、業種・取扱量等も満たせば対象です。
Q対象物質を含む製品を1トン買えば届出対象ですか?
A製品重量ではなく、製品中の対象物質量を事業所・物質ごとに判定します。濃度、在庫、複数製品の合算、製品要件の除外を確認します。
QPRTRでは年間取扱量を届け出ますか?
A届出の中心は大気・水域・土壌・事業所内埋立への排出量と、下水道・事業所外廃棄物への移動量です。取扱量は対象判定と算定の基礎に使います。
Q取扱量が1トン未満なら必ず対象外ですか?
A特別要件施設は年間取扱量だけで判定しません。対象施設と他法令の測定対象物質等を公式手引きで確認します。
QPRTRの届出期限は7月31日ですか?
A通常の届出期間は毎年4月1日から6月30日です。過去に電子届出だけ期限延長があった年度を恒久運用とせず、提出年度の手引きを確認します。
QSDSがなければPRTR対象外と判断できますか?
Aできません。SDS交付対象外の製品や現場購入もあり得ます。製品形状、含有、使用中の放出、対象物質情報を供給者と工程から確認します。