医療機器業界は、診断、治療、リハビリ、在宅医療、検査まで、医療現場の基盤を支える産業だ。CTやMRIなどの画像診断装置、手術ロボット、内視鏡、人工関節、ペースメーカー、コンタクトレンズ、補聴器、家庭用血圧計まで、扱う製品は多岐にわたる。

一方で、業界の構造は外から見るとわかりにくい。「医薬品メーカーと医療機器メーカーは何が違うのか」「日本の医療機器メーカーは世界でどんな位置づけにあるのか」「家庭用の機器と病院用の機器は、開発や販売の仕組みがどう違うのか」と疑問を持つ人は多い。

ここでは、医療機器業界を理解する上で押さえておきたい基本知識と、主要プレイヤーや動向を整理する。なお、個別の機器選択や治療の判断は、医師や薬剤師など医療従事者に直接相談することが前提となる。本記事は情報整理を目的としており、特定の製品や治療法を推奨するものではない。

医療機器業界を見る前に整理しておきたいこと

医療機器業界を理解するための視点を整理する。

医薬品業界との違い

医薬品は化学物質や生物由来の成分で病気の治療を行う領域、医療機器は装置、材料、センサーなどの「モノ」で診断や治療、補助を行う領域だ。開発期間、規制、事業モデル、メンテナンス構造などが大きく異なっている。

機器のリスク分類

医療機器は使用時のリスクで法的に分類される。日本ではクラスI(一般医療機器)、クラスII(管理医療機器)、クラスIII(高度管理医療機器)、クラスIV(高度管理医療機器、特にリスクの高いもの)に区分される。リスクが高いほど審査が厳しい。

病院用とコンシューマ用

病院や診療所で使われる業務用機器と、家庭や個人で使う一般消費者向け機器(家庭用血圧計、コンタクトレンズ、補聴器など)がある。販売チャネル、規制対応、事業モデルが大きく異なる。

グローバル産業としての性格

医療機器は国際的に取引される産業で、欧米メーカーが大きな規模を持つ一方、日本勢は内視鏡、画像診断、検査などの領域で世界トップシェアを持つ分野もある。

知っておく意義

医療の理解、就活、投資、社会保障の議論、テクノロジーと医療の交差点の把握など、医療機器業界の構造理解は多くの場面で役立つ視点を与えてくれる。

医療機器業界の主要プレイヤー

医療現場に設置された大型の白い診断装置。
Photo by Accuray on Unsplash

医療機器業界の構造を整理する。

国内大手医療機器メーカー

オリンパス、テルモ、ニプロ、富士フイルムヘルスケア、シスメックス、日本光電、HOYAなどがある。内視鏡、画像診断、輸液、検査機器など、領域ごとに国内や世界で高シェアを持つ存在だ。

海外大手医療機器メーカー

グローバル大手の医療機器企業。メドトロニック、ジョンソン・エンド・ジョンソン MedTech、ストライカー、ボストン・サイエンティフィック、アボット、シーメンスヘルスィニアーズ、GEヘルスケア、フィリップスなどがある。M&A、販売網、研究開発投資の規模で業界を動かす存在だ。

画像診断装置

CT、MRI、超音波、X線、PET、内視鏡、デジタル病理などの機器領域。富士フイルムヘルスケア、キヤノンメディカルシステムズ、GEヘルスケア、フィリップス、オリンパスなどがある。AIによる画像解析も広がりつつある。

手術ロボット、低侵襲治療機器

手術ロボット、内視鏡手術機器、カテーテル治療機器など。インテュイティブ サージカル、メドトロニック、川崎重工(国産hinotori)、テルモなどがある。低侵襲治療の進展で需要が広がっている。

体外診断(IVD)、検査機器

血液、尿、遺伝子検査などの体外診断機器や試薬。シスメックス、富士レビオ、栄研化学、ロシュ・ダイアグノスティックス、アボットなどがある。新型コロナを契機に存在感が高まった領域だ。

インプラント、医療材料

人工関節、人工心臓弁、ペースメーカー、ステント、骨接合材料などの体内埋め込み型や接触型の医療材料。ストライカー、ジマーバイオメット、エドワーズライフサイエンシズ、ニプロ、京セラメディカルなどがある。

在宅、コンシューマヘルス機器

家庭用血圧計、体温計、血糖測定器、補聴器、コンタクトレンズ、CPAP(睡眠時無呼吸用)などの機器領域。オムロンヘルスケア、HOYA、JINSなどがあり、ウェアラブル端末も近接領域として広がる。

医療機器ディーラー、サービス

医療機器の販売や流通、保守やメンテナンスを担う事業者群。医薬品卸が医療機器を扱うケースも多く、専門ディーラーも多数存在する。

業界は機器の領域、規模、対象顧客で大きく異なる。総合メーカーと特定領域に強い専業メーカーが共存する構図だ。

医療機器業界を見比べる際に知っておきたいこと

医療機器業界の見方を整理する。

領域とポートフォリオ

画像診断、内視鏡、手術機器、心血管、整形外科、眼科、検査、在宅、ウェアラブルなど、領域別のポートフォリオで会社の特徴が見えてくる。

開発と承認のプロセス

医療機器の承認はリスク分類で審査の厳しさが変わる。クラスIVの高度な機器は、数年単位の臨床評価が必要なケースも多い。

グローバル展開

海外売上の比率、地域別シェア、海外規制対応(FDA、CEマーク、各国当局)、現地販売網など。医療機器は国際取引が活発な業界だ。

保守、サービスとアフターマーケット

画像診断装置や手術機器など、購入後の保守、消耗品、アップグレードが継続収益の源になる。アフターマーケットの強さが業績の安定性を左右する。

規制と市販後の安全管理

不具合報告、リコール、市販後調査、ISO 13485(医療機器の品質マネジメント)など、市販後の品質と安全の管理が業界の信頼性に直結する。

医療機器業界の今

上部が円形にデザインされた白い医療機器。
Photo by Accuray on Unsplash

医療機器業界は、いま大きな変化に直面している。

AIとデジタルヘルスの統合

AIによる画像診断の支援、診断アルゴリズムの薬事承認、SaMD(Software as a Medical Device、プログラム医療機器)、デジタル治療(DTx)など、ソフトウェアと医療機器の融合が業界の新潮流になっている。

低侵襲とロボット手術の広がり

手術ロボット、内視鏡手術、カテーテル治療など、低侵襲治療の領域が広がっている。国産手術ロボットなど、日本勢の参入も進む。

在宅医療とウェアラブル

高齢化を背景に、在宅医療機器、遠隔モニタリング、ウェアラブルデバイス、医療連携プラットフォームの市場が広がる。コンシューマデバイスとPHR(Personal Health Record、個人健康記録)の連携も進んでいる。

サステナビリティと医療廃棄物

使い捨て製品の見直し、滅菌の効率化、リユーザブル機器、医療廃棄物の削減など、サステナビリティの視点も業界の課題になってきた。

医療機器業界を理解する第一歩

医療機器業界の理解は、「自分が何のために知りたいかを整理する」ところから始まる。就活、投資、医療制度の理解、テクノロジーの把握など、目的によって見るべき視点は変わる。業界の全体像を掴めば、医療現場やヘルスケアニュースの見方も少し変わってくる。

業界比較図鑑では、他の業界 も中立的に整理している。なお、個別の機器選択や治療の判断は、医師や薬剤師など医療従事者に直接相談することが前提となる。本記事は情報整理を目的としており、特定の製品や治療法を推奨するものではない。医療機器業界を理解する第一歩として、業界の構造を知るところから始めてみてほしい。