「業務を効率化したい」「手作業のエクセル管理から脱却したい」「社内のデータをきちんと管理したい」。こうした課題に対する解決策として、SaaS(Software as a Service)の導入を検討する企業が増えている。
SaaSは、クラウド上で提供されるソフトウェアサービスのことだ。会計、人事労務、営業管理(CRM/SFA)、コミュニケーション、マーケティング、勤怠管理、経費精算など、業務領域ごとに多種多様なサービスが存在する。月額制で導入のハードルが低く、機能が継続的に改善されていくのが特徴になる。
ただし、SaaSは数千種類が存在し、機能や料金、運用方法もさまざまだ。「何から導入するか」「どのサービスを選ぶか」で迷う担当者は多い。本記事では、SaaSの導入を検討する際に整理しておきたい基本知識と、業界の主要プレイヤーや動向をまとめる。
SaaS導入の前に整理しておきたいこと
候補のサービスを比べ始める前に、自社の状況を整理しておくと、後の判断が楽になる。
解決したい業務課題を具体化する
「業務を効率化したい」という抽象的な目標を、「○○部の月次レポート作成に毎月2日かかっている」「経費精算が紙で年間×時間使っている」など、具体的な業務課題に落とし込んでおきたい。
既存の業務フローと利用ツールの棚卸し
現状の業務フロー、利用中のExcel、紙の書類、メール運用、既存システムを把握しておく。新規SaaSの導入は、既存業務の置き換えや、システム連携の設計を伴う場面が多い。
利用想定者数とアカウント設計
誰がどう使うか。全社員か、特定部門か、外部協力者も含めるか。SaaSの多くはアカウント数で課金されるため、想定人数によって料金が大きく変わってくる。
予算とROI(投資対効果)の見通し
月額や年額の料金、初期費用、教育や運用にかかる工数、削減できる業務時間や人件費などを試算しておきたい。ROIが見えにくいと、導入後の継続判断が難しくなりやすい。
既存システムとの連携
会計、人事、CRMなど、SaaS同士や既存システムとのデータ連携が必要かを確認しておく。APIの公開、CSVのインポートとエクスポートの可否は、導入後の運用効率に直結する。
SaaS業界の主要プレイヤー
SaaSを、業務領域別に整理する。
会計、経理
クラウド会計、請求書発行、経費精算、財務管理などを担う。freee、マネーフォワード クラウド、TKC、楽楽精算、Bill Oneなどが代表的だ。電子帳簿保存法やインボイス制度への対応を背景に、導入が広がっている。
人事労務
給与計算、勤怠管理、入退社手続き、年末調整、社会保険などを扱う。SmartHR、ジョブカン、freee人事労務、KING OF TIME、マネーフォワード クラウド人事労務などが代表的だ。
CRM/SFA(顧客管理、営業管理)
顧客情報、商談管理、営業活動の見える化を支援する領域。Salesforce、HubSpot、Senses、Sansan、kintoneなどが代表的だ。営業組織の生産性に直結しやすい領域でもある。
コミュニケーション、コラボレーション
チャット、ビデオ会議、ファイル共有、プロジェクト管理などを提供する。Slack、Microsoft Teams、Zoom、Google Workspace、Notion、Confluence、Asanaなどがこの領域を担う。
マーケティング、MA(マーケティングオートメーション)
リード獲得、メール配信、Web解析、広告運用などを統合する領域。HubSpot、Marketo、Pardot、SATORI、Synergy!などが代表的だ。
バックオフィス、契約管理
電子契約、契約書管理、稟議、ワークフロー、ID管理などを扱う。クラウドサイン、DocuSign、AgreeXなどが代表的だ。
業界特化型SaaS(バーティカルSaaS)
建設、不動産、医療、飲食、教育など、特定の業界に特化したSaaS。ANDPAD、ヤプリ、Airレジ、SHOWROOM、CiNii Researchなどが該当する。業界特有の業務フローに最適化されているのが特徴だ。
業界は領域別に多数のサービスが存在しており、事業者の規模、料金体系、機能の幅、サポート体制は大きく異なる。
SaaSを選ぶ際に知っておきたいこと
SaaSを見比べる際に押さえておきたい項目を整理する。
料金体系と契約形態
月額や年額、ユーザー数による課金、利用量による課金、フリーミアム(無料プランと有料機能)、エンタープライズ契約など、料金体系は多様だ。最低契約期間や解約条件も、サービスごとに違ってくる。
機能の幅と深さ
カバーされる機能範囲、カスタマイズの自由度、テンプレートの豊富さ、自社の業務フローへの当てはまり具合を見比べる。「機能が多い=良い」とは限らず、自社にとって必要な機能が揃っているかを優先したい。
連携性とAPI
既存システムや他のSaaSとの連携、データのインポートとエクスポート、APIの公開、連携アプリの数。SaaSは複数を組み合わせて使うことが多いため、連携性は重要な判断軸になる。
セキュリティとコンプライアンス
データの暗号化、アクセス制御、認証(SSO、二段階認証)、ログ管理、SOC 2やISMSなどの認証取得状況を確認しておきたい。個人情報や機密情報を扱うため、セキュリティ要件は早い段階で押さえておく領域だ。
導入支援とサポート体制
導入時のサポート、ユーザートレーニング、ヘルプドキュメントの充実度、カスタマーサクセス担当の有無、ユーザーコミュニティの活発さなど。導入は始まりに過ぎず、使いこなしまでの伴走が事業価値を左右する。
SaaS業界の今
SaaS業界は、ここ数年で大きな変化の中にある。
バーティカルSaaSの拡大
業界特化型のSaaSが急速に広がっている。建設、医療、不動産、飲食、教育など、業界特有の業務フローに最適化されたサービスが増えている。
AIネイティブSaaSの登場
生成AIを前提に設計された新しいSaaSが登場しつつある。文書生成、データ分析、要約、エージェント機能などが標準で組み込まれる動きが広がってきた。既存のSaaSも、AI機能の組み込みを急いでいる。
統合プラットフォーム化
複数のSaaSを横断するiPaaS(Integration Platform as a Service)、顧客データを統合するCDP(Customer Data Platform)、ノーコードやローコードなど、SaaS同士の連携やデータ統合の領域も広がっている。
価格、契約モデルの多様化
従来のサブスクリプションに加えて、利用量課金、成果報酬、価値ベース価格など、新しい価格モデルが登場している。AI機能の課金方法についても、各社の模索が続いている。
SaaS導入の第一歩
SaaSの導入は、「自社の業務課題と運用を整理する」ところから始まる。何を解決したいか、誰が使うか、どの既存システムと連携するかが明確になっていけば、向くサービスのタイプも見えてきやすい。
業界比較図鑑では、他の業界 も中立的に整理している。SaaS導入の第一歩として、業界の構造を知るところから始めてみてほしい。




