営業所に必要な技術者を一人置き、その人を二つの大規模現場へ送り出す。2024年12月13日にできた兼任制度は、そのような人員不足の万能解決策ではありません。営業所技術者または特定営業所技術者が兼ねられる専任工事は一つです。しかも、その営業所で請負契約を締結した工事で、金額、距離、下請次数、連絡員、ICT、計画書等の要件をすべて満たす必要があります。
金額は1億円未満、建築一式工事は2億円未満です。営業所から現場まで一日の勤務時間内に巡回でき、事故時にも通常の移動手段で片道おおむね2時間以内、下請は3次までとされます。各現場に連絡員を置き、施工体制を遠隔確認でき、映像・音声を確実に送受信できる環境と、人員配置計画書を備えます。
営業所技術者等の専任現場兼任は、契約した営業所から一つの現場へ、1億円未満、建築一式2億円未満、片道おおむね2時間以内などの全条件を満たす場合に限られます。
本記事は2026年9月8日に建設業法、国土交通省の制度概要、監理技術者制度運用マニュアル、改正法解説、施行時の事務連絡、許可事務ガイドライン、地方整備局Q&Aを確認しました。発注者独自の配置条件、入札公告、契約約款が法令より厳しい場合もあるため、実案件では発注者と許可行政庁へ確認します。
営業所の技術者と現場の技術者は仕事が違う
二つの職務が同時に成立する案件だけを選びます。
営業所技術者等は、許可を受けた営業所に常勤し、請負契約の締結や履行を技術面から管理する役割です。見積、契約内容、工法、技術上の相談に関わり、営業所ごとに専任で置くことが原則です。一般建設業の営業所技術者と、特定建設業の特定営業所技術者では、資格要件と対象が違います。
主任技術者・監理技術者は工事現場で施工計画、工程、品質、安全、技術上の指導監督を担います。元請が一定額以上の下請契約を締結する特定建設業の工事では監理技術者が必要になります。営業所の契約管理と現場の施工管理は、同じ資格者ができる仕事でも時間と場所が競合します。
新制度は役割を消したのではなく、ICTと人員を補い、両方を実行できる案件に限って兼任を認めました。「営業所に在席していない時間が増えたが、電話は通じる」という説明だけでは、営業所の専任性と現場管理の証拠になりません。
その営業所で締結した契約かを最初に見る
会社単位ではなく契約した営業所まで照合します。
営業所技術者等が兼任できるのは、本人が置かれている営業所で請負契約を締結した工事です。本社の技術者を、別支店が契約した現場へ当てる設計は、この条件を満たしません。契約書の名義だけでなく、見積、入札、契約権限、注文書、変更契約を処理した営業所を確認します。
建設業許可上の営業所ではない臨時事務所や工事事務所を「契約営業所」と呼び替えても対象になりません。営業所一覧、許可業種、技術者の所属、常勤、契約締結権限を許可申請資料と一致させます。
兼任判断の一行目は、工事を受けた会社名ではなく「その営業所で契約したか」です。別支店契約なら、残りの条件を満たしてもこの特例を使えません。
金額は変更契約まで含めて1億円未満で管理する
上限到達前に専任者へ切り替える余地を残します。
専任特例の対象となる各工事の請負代金は1億円未満、建築一式工事は2億円未満です。「以下」ではなく「未満」のため、ちょうど1億円・2億円は対象外です。消費税や共同企業体、分割発注、追加工事の扱いを契約単位で確認します。
工期途中の変更契約で上限以上になれば、それ以降は特例を使えず、専任の主任技術者・監理技術者を置く必要があります。受注時9,800万円の工事へ追加3,000万円が見込まれるなら、契約締結後に人を探すのでは遅れます。入札時点で交代候補と引継ぎ日を置きます。
請負金額を見かけ上分割し、実質一体の工事を別契約にして要件を逃れる運用は、適正な施工と発注者保護に反します。建設工事の労務費基準と同じく、契約額を小さく見せるより、変更要因を見積内訳と工程へ出します。
現場は一つ、営業所から片道おおむね2時間以内
現場数と緊急時の実移動を地図で検証します。
通常の主任技術者・監理技術者向け専任特例1号は、要件を満たす二現場以下を兼任できます。営業所技術者等が営業所業務と兼ねる場合は、専任工事現場は一つです。営業所を一つの現場と数えて二現場へ行けるという読み方はしません。
距離は現場同士ではなく、所属営業所から当該現場までです。一日の勤務時間内に巡回でき、現場で災害、事故その他の事象が起きた時、確実に使える通常の移動手段で片道おおむね2時間以内とします。地図上の最短時間だけでなく、朝夕渋滞、積雪、船便、通行規制、駐車から現場までを入れます。
普段90分でも冬季に3時間になる山間部、最終便後に戻れない離島、豪雨で通行止めが常態化する経路は、緊急時の確実性を説明できません。時刻・曜日・季節別の経路を保存し、代替交通を含めて発注者と共有します。
「地図アプリで一度だけ1時間58分」では足りません。事故が起きる時間帯にも、通常使う移動手段で営業所から現場へおおむね2時間以内かを記録します。
下請3次までを着工後も追跡する
再下請負通知から四次発生を早期に捉えます。
下請次数は、当該建設業者が注文者となる一次下請、その下の二次、さらに三次までです。四次下請が発生すれば、それ以降は専任特例を使えません。施工体制台帳を着工時に作って終わりにせず、新規入場、再下請負通知、変更契約を追います。
一次下請が「応援」「手間請け」「資材運搬」と呼ぶ取引でも、実態が建設工事の請負なら次数へ影響します。資材売買、機械賃貸、警備、測量等との区分は契約名だけで決めません。作業指示、完成責任、報酬、道具負担を確認します。
下請構造が深くなる可能性のある専門工事は、三次を上限に固定できるかを見積段階で一次下請へ聞きます。施工体制の変更を検知する責任者と、四次発生時に専任者へ切り替える期限を配置計画へ入れます。
連絡員は伝言係ではなく現場側の補助線になる
経験、勤務、事故時権限を配置前に決めます。
各工事には、主任技術者・監理技術者との連絡その他必要な措置を行う連絡員を置きます。土木一式工事・建築一式工事では、当該工事に関する実務経験1年以上が必要です。連絡員に専任・常駐や直接的・恒常的雇用までは求められませんが、請負会社が配置し、最終責任は請負会社に残ります。
連絡員は工程会議、品質検査、事故時に、遠隔の技術者からの指示を現場へ正確に伝え、現場の変化を戻します。写真をチャットへ送るだけでは、誰がどの判断を伝え、職長が理解し、是正を完了したか残りません。
連絡員の氏名、所属、経験、勤務時間、連絡手段、代替者を日ごとに確認します。休暇や夜間作業で不在になる日に、兼任技術者も別の会議へ出る配置は避けます。事故時の第一報、作業停止、現場保存、発注者連絡の権限を渡します。
入退場確認と映像・音声通信は別の要件
二種類のICTを現場の必要地点で試します。
施工体制を遠隔確認する情報通信技術と、現場状況を映像・音声で確認する機器は、似ていますが役割が違います。前者は現場作業員の入退場等から施工体制を確認する仕組みで、CCUSまたはAPI連携システムが望ましいとされますが、遠隔確認できる他の仕組みも候補です。
後者はスマートフォン、タブレット、ウェブ会議等で映像と音声を確実に送受信し、遠隔から現場状況を確認する環境です。山間部や地下で通信が途切れ、必要な情報交換を確実にできないなら要件を満たしません。録画の有無より、必要な場面でつながる通信品質と運用を試します。
通信試験は現場事務所だけでなく、掘削底、建物内部、トンネル坑内など技術判断が必要な場所で行います。電池、耐候ケース、騒音下の音声、夜間照明、通信障害時の退避・作業停止を決めます。建設DXの現場管理を導入済みでも、法の要件に対応する機能と記録を特定します。
入退場を遠隔確認できるだけでも、ビデオ通話ができるだけでも足りません。施工体制確認と現場状況の映像・音声確認を二つの要件として試します。
人員配置計画書を現場と営業所の両方で更新する
金額、下請、通信、労働時間の変化を履歴化します。












