不動産業界

借上げ社宅と住宅手当はどちらが得?手取り・社会保険・会社負担を比較

家賃12万円の例で、借上げ社宅と住宅手当を、所得税、社会保険の現物給与、敷金・更新・退去、対象者の公平性まで比較します。

家賃、会社負担、本人負担、税、社会保険、退去費を同じ表で比較する人事と経理担当者。

住宅手当の額面と社宅の家賃差額ではなく、従業員の手取りと会社の総負担を同じ期間で比べます。

家賃12万円の部屋に住む従業員へ、会社が月4万円の住宅手当を払う案と、会社が部屋を借りて本人から月4万円を徴収する借上げ社宅案。従業員の家賃負担が8万円になるように見えても、税、社会保険、敷金、更新、退去、空室を加えると同じ制度ではありません。

国税庁は、現金で支給する住宅手当や、入居者が直接契約して会社が家賃を負担する形は社宅の貸与と認めず、給与として課税すると説明しています。会社が借りた住宅を従業員へ貸す場合は、固定資産税の課税標準額などから求める賃貸料相当額と、本人から徴収する家賃の関係を確認します。

借上げ社宅と住宅手当は「会社が毎月4万円負担する制度」として比べず、従業員手取りと会社の現金支出を入居から退去まで通算して比べます。

本記事は2026年9月4日に、国税庁と日本年金機構の公開資料を確認して作成しました。税務上の取扱い、標準報酬月額、賃貸借契約は個別事情で変わるため、導入時は税理士、社会保険労務士、宅地建物取引士、弁護士などへ確認してください。

まず誰が貸主と契約するかを見る

送金方法より賃貸借契約の当事者を確認します。

住宅手当は、従業員が自分で賃貸借契約を結び、会社が給与項目として手当を払う形が一般的です。物件選び、敷金、更新、退去は従業員が担います。会社の事務は比較的軽い一方、現金手当は給与として所得税や社会保険の計算へ入ります。

借上げ社宅は、会社が貸主・管理会社と賃貸借契約を結び、従業員へ使用させます。会社が家賃を払い、本人負担を給与から徴収する運用が多く、物件審査、契約、更新、退去精算、滞納、破損へ会社が関与します。

従業員が契約した部屋の家賃を会社が大家へ直接払っても、契約名義が従業員なら自動的に社宅扱いになるとは限りません。国税庁は、入居者が直接契約している場合の家賃負担を現金の住宅手当と同様に給与として扱うと示しています。

送金先ではなく、会社が住宅を借りて従業員へ貸す契約になっているかが税務上の社宅判定の入口です。

税務上の賃貸料相当額を計算する

市場家賃ではなく法定算式の基準額を出します。

使用人向け社宅の賃貸料相当額は、建物の固定資産税課税標準額の0.2%、12円に建物総床面積を3.3平方メートルで割った数を掛けた額、敷地の固定資産税課税標準額の0.22%を合計して求めます。国税庁の2025年4月1日現在の案内に基づく計算です。

従業員から一か月当たり賃貸料相当額の50%以上を受け取っていれば、賃貸料相当額と本人負担の差額は給与として課税されない取扱いがあります。賃貸料相当額が1万円で本人から6,000円を取る例では、差額4,000円は給与課税されません。無償貸与なら賃貸料相当額が給与課税されます。

ここで使う賃貸料相当額は、会社が大家へ払う家賃12万円の50%ではありません。借上げ物件でも固定資産税の課税標準額などを確認する必要があります。管理会社が情報を出せない時に、会社負担家賃の半額を機械的に本人徴収額へしません。

使用人社宅の「50%」は市場家賃や会社支払家賃の半分ではなく、税法上の算式で求めた賃貸料相当額の50%です。

建物と敷地の固定資産税課税標準額、床面積、本人徴収家賃から社宅の賃貸料相当額を計算する表。
会社が払う家賃ではなく、固定資産税課税標準額と床面積から税務上の基準額を出します。

社会保険は別の現物給与価額を使う

税務と標準報酬月額の計算を分離します。

厚生年金保険と健康保険では、住宅を労働の対償として現物支給する場合、厚生労働大臣が定める現物給与価額を通貨へ換算し、金銭給与と合算して標準報酬月額の基礎にします。日本年金機構は都道府県別の価額一覧を年度ごとに公表しています。

社会保険の住宅現物価額は、税務の固定資産税課税標準額を使う算式と別です。畳数など所定の単位へ都道府県別価額を掛け、本人負担を差し引くなどの処理を確認します。税務上非課税だから社会保険の報酬もゼロ、と短絡しません。

勤務地がA県で社宅がB県にある場合について、日本年金機構は、人事・労務・給与を管理する事業所が所在する地域の価額で計算すると案内しています。本社一括適用や支店管理など、自社の適用事業所を確認します。

税務上の賃貸料相当額と社会保険の住宅現物給与価額は別計算です。給与マスターへ二つの基準を持ちます。

住宅手当と借上げ社宅を比較する主な範囲。
業態従業員側会社側制度設計の要点
現金の住宅手当物件を自由に選び、手当は給与課税賃貸管理は少なく、給与・社会保険負担が増える対象、支給上限、持家・賃貸の公平性
借上げ社宅会社契約物件を利用し本人家賃を負担家賃、契約、空室、退去を管理税務賃貸料と社会保険現物価額
転勤社宅会社都合の転居費を抑えられる二重家賃、短期解約、地域差を負担赴任期間、家族、帰任、単身赴任
寮・共有住宅費用を抑えやすいが生活制約がある共用部、安全、入退去を管理プライバシー、設備、ハラスメント窓口

12万円の家賃を一枚の給与明細へ落とす

従業員手取りと会社負担を別の列で試算します。

住宅手当4万円なら、額面給与へ4万円を加え、所得税、住民税、社会保険の対象として給与計算します。手取り増は4万円より小さくなります。実際の差は所得、扶養、自治体、標準報酬月額の等級、保険料率などで変わるため、想定従業員ごとに試算します。

借上げ社宅では、会社が家賃12万円を払い、本人から例えば4万円を徴収します。会社の差額負担は8万円に見えますが、税務上の賃貸料相当額と社会保険の現物価額を別に判定します。敷金、礼金、仲介、保証、更新、火災保険、退去も会社負担へ加えます。

住宅手当4万円と社宅差額8万円をそのまま比較するのも誤りです。会社が選べる物件上限、法人契約割引、本人負担、初期費用の償却期間、空室月をそろえます。三年間で比べるなら、入居36か月だけでなく退去精算まで入れます。

手取り試算と会社負担試算は同じ表へ置きますが、会社負担額をそのまま従業員の利益と呼びません。

敷金と原状回復を制度費用へ入れる

入居中に見えない空室・退去リスクを足します。

会社名義で借りると、退職や転勤で本人が出た後も解約予告期間の家賃が残ることがあります。次の入居者がすぐ決まらなければ空室負担が発生します。短期解約違約金、クリーニング、鍵交換、家具処分を誰が負担するかを社宅規程へ書きます。

通常損耗と故意・過失による損傷を分け、本人負担にする項目と算定方法を入居時に説明します。退去立会いの写真とチェック表を保管し、貸主請求を全額そのまま従業員へ転嫁しません。本人が異議を述べる窓口と給与控除の根拠も決めます。

敷金は返還される可能性がある資金でも、会社の現金を拘束します。100戸へ家賃二か月分を預けるなら、家賃12万円で2,400万円です。回収までの期間と未回収を資金繰りへ入れます。会社の資金繰り予測で、更新月と退去月を週次表へ置きます。

借上げ社宅のコストは毎月の家賃差額だけでなく、敷金の拘束、空室、解約予告、退去精算で大きく変わります。

対象者の公平性を住居費だけで決めない

会社都合の追加費用と本人選択を分けます。

転勤者だけ、若手だけ、単身者だけ、一定距離以上だけを対象にする制度は、事業上の理由を説明できるようにします。持家、実家、同性パートナー、外国人、障害者、育児・介護、単身赴任など、従来の家族像では扱えないケースを規程へ入れます。

住宅手当を一律4万円にすると、家賃の安い地域ほど補助率が高くなります。家賃の50%上限にすると、高額物件を選べる人ほど支給額が増える場合があります。借上げ社宅で会社が物件を指定しすぎると、通勤、保育、介護、バリアフリーの選択を狭めます。

公平性は全員同額だけではありません。転勤命令で二重家賃が生じる人、採用のため遠方から転居する人、災害で住居を失った人など、会社都合と本人選択を分けます。外国人材の育成と定着では、生活支援を採用後の運用までつなげています。

住宅制度の公平性は全員へ同額を配ることではなく、会社都合で生じる追加住居費と、本人が自由に選ぶ住居費を分けて説明できることです。

役員社宅を使用人ルールへ混ぜない

立場と住宅規模に合う税務基準を使います。

国税庁は役員社宅について、小規模住宅、借上げ住宅、豪華社宅などで賃貸料相当額の計算を分けています。使用人向けの「賃貸料相当額の50%以上」を、そのまま代表取締役や役員へ適用しません。

使用人兼務役員、家族役員、オーナー企業では、役員か使用人か、住宅の規模、会社負担、業務利用部分を確認します。役員だけ高額物件を無償で使う制度は、給与課税だけでなく役員給与の損金算入も個別判断が必要です。

規程は、使用人社宅、転勤社宅、役員社宅、寮、単身赴任を章で分けます。給与担当が役職コードだけで同じ本人負担率を入れないよう、税務判定の承認者を置きます。

役員社宅と使用人社宅は賃貸料相当額のルールが違うため、同じ本人負担率で運用しません。

三年TCOで住宅手当と並べる

入居から退去まで36か月の現金を比較します。

比較期間を36か月とし、住宅手当案には支給額、会社負担の社会保険、給与事務を入れます。借上げ社宅案には家賃、初期費用、更新、保険、管理代行、現物給与の会社負担、本人徴収、空室、退去費、敷金回収を入れます。

入退社率が高い会社は、入居18か月、36か月、途中退職の三案を作ります。全国転勤がある会社は地域別家賃上限と現物給与価額を変えます。制度導入による採用・定着効果を金額化するなら、応募、内定承諾、半年定着を対象群と非対象群で比べます。

税負担だけを下げるための制度にせず、物件選択、緊急連絡、ハラスメント、個人情報、災害時安否を運用します。従業員サーベイの活用とつなげ、使わない理由も確認します。

借上げ社宅と住宅手当の家賃、税、社会保険、初期費用、空室、退去費を36か月で比較する人事会議。
入居中の手取りだけでなく、空室と退去を含む36か月の会社負担を比べます。

三年総額が近いなら、従業員の物件選択、会社の退去リスク、給与計算の再現性が高い案を選びます。

導入前に五つの例外を通す

入社辞退から退職後まで手順を検収します。

入社前辞退、月途中入居、休職、転勤、退職後の居座りを机上で通します。誰が貸主へ連絡し、家賃を払い、本人から徴収し、鍵を回収するかを日付で決めます。給与担当、人事、総務、経理、不動産管理会社の責任を分けます。

本人負担を給与控除するなら、控除根拠と明細表示を確認します。家賃改定、更新料、光熱費、駐車場、同居人の追加を誰が承認するかも規程へ入れます。退職翌日から個人契約へ切り替えられるとは限らないため、猶予期間と違約金を先に決めます。

制度開始後は、一戸当たり総費用、空室日数、退去費、問い合わせ、給与訂正、対象者利用率、採用・定着を追います。節税額だけを成果にせず、税務・社会保険の計算根拠を年度更新します。

社宅制度は入居承認で完成せず、退職後に鍵、家賃、敷金、給与控除を全て閉じられて初めて一件が完了します。

物件データを給与計算へ渡す

入居情報と二つの現物給与基準を月次で照合します。

借上げ社宅の税務計算には固定資産税課税標準額や床面積が必要ですが、不動産管理会社の物件台帳と給与システムは自動的につながりません。物件ID、入居者、入居日、本人家賃、税務基準、社会保険基準、改定年度を一件の台帳へ持ちます。

年度が変わった時は、都道府県別の現物給与価額、固定資産税課税標準額、家賃、本人負担の更新日を分けます。四月改定を給与締日だけで一か月遅らせないよう、適用月を確認します。過去の計算根拠と新基準を上書きせず保存します。

100戸を扱う会社では、退去済みなのに本人家賃を控除する、入居したのに現物給与を計上しない、部屋を変えたのに旧面積を使う誤りが起きます。毎月、賃貸借契約、入居台帳、給与控除、支払家賃の四つを件数と金額で照合します。

管理代行へ委託しても、税務・社会保険の最終責任まで自動的に移るわけではありません。会社が根拠資料を取得でき、退去後も必要期間保存できる契約にします。

物件台帳へのアクセスは人事、給与、総務、経理で分けます。住所、同居人、本人負担は個人情報であり、採用担当や上司が目的なく閲覧できる状態にしません。災害時の安否確認に使う連絡情報と、税務計算に使う物件情報も別の利用目的として管理します。

給与計算の締め後に入退去連絡が届いた場合の訂正月も決めます。遡及差額を一度に徴収して手取りを急減させず、計算根拠と返還・徴収予定を本人へ示します。

まとめ

手取り、総費用、住宅リスクを同時に見ます。

住宅手当は物件選択を従業員へ残し、会社の賃貸管理を抑えやすい制度です。借上げ社宅は税務上の取扱いを生かせる場合がありますが、会社が契約・空室・退去を引き受け、社会保険の現物給与計算も必要です。

家賃12万円と手当4万円だけを比べず、想定従業員の手取りと、会社の36か月総支出を別々に計算します。税務と社会保険の基準を分け、対象者の公平性と退去の出口を規程へ落とします。

どちらが得かの答えは税率だけでは決まりません。従業員の選択をどこまで残し、会社がどこまで住宅リスクを管理できるかで決まります。

参考情報

税務と社会保険の基準をそれぞれ原典で確認します。

以下は2026年9月4日に確認した一次情報です。

よくある質問

気になる質問を開くと、本文の重要点を短く確認できます。

会社が家賃を大家へ直接払えば社宅になりますか?

送金先だけでは決まりません。会社が住宅を借り、従業員へ貸す契約になっているかを確認します。従業員が直接契約する家賃負担は給与課税の対象とされます。

借上げ社宅は家賃の半額を従業員から取れば非課税ですか?

使用人社宅の50%基準は、会社支払家賃ではなく税務上の算式で求める賃貸料相当額が基準です。固定資産税課税標準額などを確認します。

税務上非課税なら社会保険料も増えませんか?

同じ計算ではありません。社会保険では都道府県別の住宅現物給与価額を使うため、税務と別に標準報酬月額への算入を確認します。

住宅手当4万円なら手取りも4万円増えますか?

原則として給与に含まれ、所得税、住民税、社会保険の影響を受けるため、手取り増は額面と一致しません。個人条件で試算します。

退職したら借上げ社宅をすぐ個人契約へ変えられますか?

貸主・管理会社の審査と新契約が必要で、必ず切り替えられるとは限りません。退去期限、猶予、違約金を社宅規程へ定めます。

役員にも従業員と同じ社宅家賃を設定できますか?

役員社宅は使用人社宅と異なる取扱いがあります。住宅規模、借上げか、豪華社宅かなどで賃貸料相当額の計算を確認します。

タグ
#借上げ社宅#住宅手当#家賃補助#福利厚生#所得税#社会保険#現物給与#転勤

業界比較図鑑について

業界比較図鑑は、生活者が世の中の仕組みを理解するための図鑑メディアです。編集部が中立的に業界を整理し、評価や推奨を含めず、事実情報として提示しています。

業界一覧を見る